分断と衝突を繰り返すアメリカ。今や国民の多くが「数年以内に内戦が起こる」との恐怖を抱いている。そうした時代の変化に伴い、民主主義と国民国家の在りかたに向き合ってきたアメリカ文学も、大きな分岐点を迎えている。 本連載ではアメリカ文学研究者・翻訳家の都甲幸治が、分断と衝突の時代において「アメリカ文学の新古典」になりうる作品と作家を紹介していく。 第1回目はチャック・パラニュークが1996年に発表した小説『ファイト・クラブ』(ハヤカワ文庫NV)。同作はデヴィッド・フィンチャー監督、エドワード・ノートンとブラッド・ピット主演で映画化され、カルト的人気を博した作品だ。日本でも2015年に早川書房から復刊されパラニューク作品の再評価が始まった。なぜ、30年の時を経て、この小説が再び広く読まれるようになったのだろうか。今年の3月に青山ブックセンターのイベントで、パラニュークと言葉を交わした著者が論じる。