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コーヒー沼
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サントリー美術館の織田有楽斎展。織田の血筋や波乱の人生のために派手なイメージがあるが,その実,古田織部や小堀遠州と比べるに堅実な茶人だったのだろうと思われた。あまり奇抜な茶器がなく,保守的で王道を行く茶人だったのだろう。その中では数少ない珍しい茶器にあたる狸形壺が目玉展示で,ちょうど狸がネットで話題になる幸運は有楽斎らしいのかもしれない。 そうした茶器の玄人好みを反映してか,茶器の展示はさほど多くなく,書状が主体であった。血筋と茶の湯の腕前のため,外交や人間関係の調整を任されがちで御茶湯御政道の真ん中にいた人という印象が強まる。『へうげもの』ファンなら顔が浮かんでくる面々とのやりとりである。茶器は青磁の銘「鎹」,大ぶりで青みがかった有楽井戸,欠けた茶碗に割れた染付をあてがった呼継茶碗が良かった。狸形壺と呼継茶碗は公式のTwitterアカウントが公開してくれているので以下に貼っておく。 \《
去年の。4ヶ月遅れながら,書かないと2023年が終わらないので書いておく。感想コメントをつけられるものはつけ,何も思い浮かばなかったものは作品タイトルだけ。全般的にネタバレは回避していない。フリーレンと薬屋は2024年扱いとすると,2023年は2022年に比べて原作付もオリジナルも不作だった。 <冬> 『もういっぽん!』 2023年面白かったアニメ1位。というよりも,続き物を除くと,2023年で推せるアニメ(2022年の4位までと遜色がないアニメ)がこれしかない。女子柔道のスポ根。原作者が柔道物の漫画を描こうとするも,柔道物という時点で連載会議の俎上に上がりにくく苦心惨憺,いっそのこと女子柔道にするかと描いたらこれが当たったというような経緯がpixivに投稿されていた。それでも女の子が上手く描けないと悩んでいるようだが,原作の絵柄もアニメの絵柄も十分に可愛いと思う。 スポ根アニメが好きな人
出版社による告知記事はこちら。 絶対に解けない受験世界史4: 悪問・難問・奇問・出題ミス集稲田義智パブリブ2024-04-12 すでにAmazon,honto等で発売中です。シリーズ存続のためにもご購入いただけると幸いです。 以下は3巻同様に,本書の紹介をFAQ形式で。 よくわかる! 『絶対に解けない受験世界史4 悪問・難問・奇問・出題ミス集』FAQ Q.目的や内容は前巻までと同じなの? A.全く同じです。大学入試における悪問や超難問,出題ミスを収録・解説した本です。本気で難しくて解けない問題から,日本語の崩壊した問題,単なる誤植,笑える問題,珍しい問題など,多岐にわたって収録しています。 1.入試問題作成の杜撰さを世の中に訴えること 2.出題ミスの事例を集めて,出題者へ提供すること 3.悪問を笑い飛ばして当時の受験生の無念を供養すること 4.世の中の世界史マニアに難問を提供すること を主
1.共通テスト 世界史A <種別>難問 <問題>1 問6 文章中の空欄〔 エ 〕の都市の歴史について述べたうとえの正誤の組合せとして正しいものを,後の①〜④のうちから一つ選べ。〔 6 〕 (編註:空欄エは南京を指す。) う 太平天国が都を置いた。 え 李自成によって占領された。 ① う−正 え−正 ② う−正 え−誤 ③ う−誤 え−正 ④ う−誤 え−誤 <解答解説> うは基礎知識で正文と判断できるが,えは順王朝の支配領域なんて世界史Bでも習わないし早慶でも出ない。超難問である。順の最大領域は華北に限られるので,えの文は誤文であり,正解は②となる。作問者はおそらく「北京」と「南京」を入れ替えて誤文という極めて安直な発想で作ったと思われるが,こうした正誤判定の作問では入れ替える前後で比較するだけでなく,入れ替えた後の文単体で判断して妥当かどうかを検討する必要がある。本問は検討不十分
昨日の続き。本日は早稲田大をお届けする。入試は7学部で収録した問題は16問であるが,そのうち2つの学部が10問を占めた(教育と商)。昨年もそうだったが,偏りが激しい。 18.早稲田大 文化構想学部 <種別>難問 <問題>2 設問7 下線部Gの事態は(編註:アメリカ大陸にはそれまで存在しなかった感染症が持ち込まれ,ヨーロッパ大陸にはトウモロコシやトマトなどがもたらされた),アメリカ大陸に到達した航海者の名にちなみ,何と呼ばれるか,記述解答用紙の所定欄に記しなさい。 <解答解説> 盲点事項。歴史好きは当たり前に使っている言葉だが,言われてみると高校世界史にはなかった。正解は「コロンブス(の)交換」。なお,新課程の世界史探究の教科書・用語集には記載されるようになった。フライング出題である。 19.早稲田大 文化構想学部(2つめ) <種別>難問 <問題>3 次の史料は,桑原隲蔵『考史遊記』(岩波書
今年も書き上げることができたので公開する。いきなり告知から入るが,もうすぐ4巻が発売する予定なので,お買い求めいただけると幸いです。4巻の校正作業はほぼ終わっているが,この2024年の記事と作業時期が重なったので,今年は少し大変だった。 【速報】突然ですが『絶対に解けない受験世界史4』を出版します! 著者は稲田義智さん@nix_in_desertis です! https://t.co/orMarDPCeo pic.twitter.com/bMYXPPMiss — パブリブ (@publibjp) March 15, 2024 <収録の基準と分類> 基準は例年と同じである。 出題ミス:どこをどうあがいても言い訳できない問題。解答不能,もしくは複数正解が認められるもの。 悪問:厳格に言えば出題ミスとみなしうる,国語的にしか解答が出せない問題。 → 歴史的知識及び一般常識から「明確に」判断を下せ
溜め込んでしまったので一気に書いていく。 ポーラ美術館のシン・ジャパニーズ・ペインティング展。宝永山に登って富士屋ホテルに泊まり,翌日は無計画という状況だったため,都内で開催されているポーラ美術館展には何度も行っているのにポーラ美術館自体には行ったことがないことに気付いて,良い機会と捉えて行くことにした。したがって,ねらって行った企画展ではなく,行ったら偶然この企画展だったという形である。「新たな日本画の創造」をテーマとして所蔵品から明治から現代までの作品に,加えて現代作家から出品してもらったものを加えて大規模な展覧会を構成していた。とはいえ所蔵品からの出品は所蔵品であるがゆえの制限からそこまで統一性が無く,また現代の作家が「新たな日本画の創造」等という抽象的なテーマで素直な出品をするはずもなく,結果として総花的な展覧会と化していたのは否めない。が,個々の作品はなかなか面白かった。有名な現
92.大山 伯耆大山。「伝説的に言えば,大山はわが国で最も古い山の一つである」からいつもの歴史語りが始まり,大山寺が僧兵を擁して暴れていたことや,『暗夜行路』の最後の場面であることまできっちり言及している。山容について言及する部分では,「だいたい中国地方には目立った山が少ない。その中でひとり大山が図抜けて高く,秀麗な容を持っている」から始まり,けっこうな紙幅を費やして中国地方から選出した百名山がこの一座しかない理由を説明するかのごとく中国山地をけなしている。もっとも本人があとがきで氷ノ山が候補に入っていたことを書いているし,二百名山ではその氷ノ山・蒜山・三瓶山が入っているから,中国山地も惜しいところで一座だけになった。そう考えると,大山のページではちょっと中国山地をけなしすぎている印象である。 大山の山容について言及するなら外せないのが,見る角度によって山容が大きく異なるという点である。深
88.荒島岳 深田は石川県大聖寺(現在は加賀市)の出身だが,「母が福井市の出だった関係から,中学(旧制)は隣県の福井中学へ入った」。そのため,荒島岳は深田が中学生の頃から知っていた山だが,実は長らく登っておらず,初めて登ったのは『日本百名山』の執筆から数年前とのことであるから1950年代のことだろう。荒島岳は深田が故郷の山だから選出されたのだと言われがちだが,実は大して登っていない山だったりする。とはいえ,実は深田自身が「もし一つの県から一つの代表的な山を選ぶとしたら,という考えが前から私にあった」として,そこから荒島岳と能郷白山で悩み,荒島岳を県代表とした……と全く隠す気が無く書いている。直接明言した文ではないが,福井県から一つも百名山を選出しないわけにはいかなかったと解釈しうる。 ちょっと面白いのは,中学の頃から麓から立派な山容だと眺めていたことが長々と述べられた後,しかしながら「千五
66.雲取山 深田久弥は都会の喧騒が嫌いすぎて,「煤煙とコンクリートの壁とネオンサインのみがいたずらにふえて行く東京都に,原生林に覆われた雲取山のあることは誇っていい」とよくわからない褒め方をしている。また「雲取山は東京から一番近く,一番深山らしい気分のある二千米峰だけあって,高尾山や箱根などのハイキング的登山では物足りなくなった一が,次に目ざす恰好な山になっている」とする。これは現代でも変わっていない。かく言う私も初めて山小屋に泊まったのはこの雲取山だった。一方で,「一番やさしい普通のコースは,三峰神社までケーブルカーであがって,それから尾根伝いに,白岩山を経て達するものであろう」としている。現在では鴨沢から登っていくのが一番楽だと思われるので,当時は鴨沢ルートが荒れていたものと思われる。奥多摩を手に入れた東京都が,過保護気味に登山道を整備するとは,深田も予想していなかっただろう。それで
30.谷川岳 最初の話題は当然,遭難死者である。『日本百名山』が書かれた昭和30年代ではまだ二百数十人だったようだが,2023年現在は800人を優に超えている。調べみると,ちょうど昭和30〜40年代に最も死者が出ており,しかもその多くが一ノ倉沢の登攀と積雪期での凍死である。21世紀に入ってからは危機意識の高まり,装備の改良等により死者が大きく減っている(それでも年に2,3人ずつの死者が出ている)。百名山ブームが死者を増やしたとあっては深田もやりきれない。 深田が紹介していて面白かったのは,山名に関するエピソードである。実は真の谷川岳はトマの耳でもオキの耳でもなく俎粠と呼ばれる山であったが,国土地理院の前身にあたる機関が5万分の1地図を作った際に,それまで谷川富士・薬師岳と呼ばれていた両耳を指して谷川岳と記載し,それが定着してしまったのだという。その俎粠はどこにあるのかとYAMAPの地図で調
『日本百名山』について,深田久弥自身はあくまで自分が登ったことがある山から選んだこと,深田久弥の選定であって日本の登山家の決定版的に選んだわけではないことを強調しているが,結果として日本百名山は神聖視されている。日本百名山の選定に対する不満としては, ・深田久弥が喧騒を嫌ったために過度に観光地化した山は外された(御在所岳など) ・深田久弥が登っていないために選ばれなかった(石狩岳など) ・標高が1500mよりも低い山は,筑波山・天城山・伊吹山・開聞岳の例外を除いて一律外された(比叡山など) ・選定が東日本,特に北アルプスと北関東に偏っていて西日本からの選出が少ない(蒜山・氷ノ山など) 辺りがよく聞かれるところで,これらの批判自体は当てはまっている。私自身,低山が外されたことについては疑問に思う。しかし,刊行から60年を経て,結局深田の百名山に代わる権威は出現しなかった。深田自身は神聖視を拒
・サービス共通利用規約改定と「禁止商品」「要修正商品」設定のお知らせ(pixiv) → 昨年の11月末,pixivが実写由来の公序良俗に反する商品を禁止商品,そうではないがpixiv運営の判断でまずいと判断されたものは要修正商品と定義し,それぞれの出品禁止や要修正依頼を行うと発表していた。前者は当然という話で反発がほぼ無かったが,後者はこの規約の適用範囲が有料利用のpixivfanboxやBoothに限れていて通常のpixivには及んでいないことや,該当する具体例が「児童に対する性的搾取及び性的虐待,近親相姦,獣姦,レイプ,人または体の非合法的な切断,その他」となっていた点から,あからさまな「国際カードブランド等の規約」由来の表現規制であるとして多少の批判が生じていた。これらは公序良俗に反する表現であるが,実在の人物を用いていない以上は法に触れていない。多国籍企業が国家権力を上回っている事
・インドネシア、婚前交渉犯罪化へ 刑法改正案を可決(ロイター) → 昨年の12月のこと。記事中にある通り「黒魔術、大統領や国家機関への侮辱、国家イデオロギーに反する意見の拡散、無届けの抗議活動を禁止した」という刑法改正の一環。報道が婚前交渉犯罪化の一点に集中しているが,むしろ大統領や国家機関への侮辱辺りの方が民主主義の危機ではないか。「黒魔術」の禁止は意味不明である。ついでに「汚職贈賄罪の刑期短縮」もついてきたそうで,道理のない改正である。「インドネシアの刑法は植民地時代に制定されたもの」だそうだから改正の気運があったのはわかるが,もののついでであまりにやりたい放題である。 → さらにこの国会の出席者が575人のうち18人に過ぎず,オンライン参加等を含めても欠席者が285人に及んだという報道もあった。インドネシアはユドヨノ政権以降に民主主義が定着し始めた印象があったが,実態はこんなものか。
近美のガウディ展。前回の展覧会の感想のマティス展でも書いたが,19世紀末の芸術家は修業時代が面白く,ガウディもやはりいろいろなものに触れて広く勉強している。歴史主義建築が流行った時代であるから過去の建築の勉強をみっちりしておくのには意味があり,特にスペインであればムデハル建築に触れられるのは強みであった。その中でガウディが関心を持ったのはゴシック建築らしく,ガウディの建築業のベースはネオ・ゴシック建築になっていったようだ。と同時に発想が理系よりと言えばいいのか,幾何学模様にも関心が強く,これが合わさって「両端を固定した紐を吊り下げて放物線上の形の建築物を構想する」パラボラ・アーチという奇抜な発想に至ったのだろう。その流れがよくわかる展示になっていた。 それがわかったところで展示の後半はガウディの超大作,サグラダ・ファミリアに焦点が当たる。このサグラダ・ファミリアも最初はガウディ以外の設計者
SOMPO美術館のブルターニュ展。偶然か作為かはわからないが(事情を知っている人がいればコメント欄でご教示いただけるとありがたい),2023年の6月に西美とSOMPO美術館でブルターニュ展がかぶった。ブルターニュはフランスの辺境で独自の文化を維持した地域であり,近代になって鉄道が通ると観光地として人気を博すことになった。そこには都会化し,過度に洗練化されたパリとは異なる,粗野で素朴で敬虔な人々と,波高く険しい断崖に代表される荒々しい風景が都会に疲れた人々を出迎えてくれるのであった……という説明だけで気づく人は気づくところで,数々の絵画を鑑賞して感じたのは,どう考えてもこれは身近なオリエンタリズムである。しかも距離が近すぎるがゆえに当事者たちが気づきにくいたぐいの。とするとそこを批評するのが展覧会の役目なのではないかと思うのだが,どちらの企画展もその方向性での批評性は高かったとは言いがたい。
昨日の続き。本日は国立大をお届けする。集まったのはいつもの面々であった。一番注目されるべき問題が共通テストの日本史Bだったりするのは例年と少し違うところかもしれない。長くなったのでおまけは無し。東京外大は未入手。 1.共通テスト 世界史B <種別>??? <問題>3 C 中国における書籍分類の歴史について,大学生と教授が話をしている。 内 藤:18世紀の中国で編纂された〔 オ 〕の「四」という数字はどういう意味ですか。高校では用語として覚えただけで,深く考えませんでした。(編註:空欄オの正解は『四庫全書』) 教 授:〔 オ 〕に収められた書籍が,四つに分類されているためです。これを四部分類と言い,経部・史部・子部・集部からなります。 内藤:なるほど,例えば儒学の経典なら経部に,歴史書なら史部に分類されているという具合でしょうか。 教授:そのとおりです。史部について少し具体的に見てみましょう
昨日の続き。本日は早稲田大をお届けする。入試は7学部で収録した問題は14問であるが,そのうち3つの学部が10問を占めた。少し偏っている。 〔番外編〕早稲田大・文化構想学部 <問題>5 設問3 図Bは,フランスの画家ピュヴィ=ド=シャヴァンヌが1871年から1872年にかけて「希望」をテーマに制作した作品の1点である。ここでは,白いドレスを着た女性が平和を意味する小枝を持ち座っているが,その背景には荒涼とした風景が広がり,墓地や十字架が見え戦争の痕跡がうかがえる。この絵の構想の着想源となった,製作時期にもっとも近い年代に行われた戦争は何か。次のア〜エの中から一つ選び,マーク解答用紙の所定欄にマークしなさい。 ア ライプツィヒの戦い イ アロー戦争 ウ プロイセン=フランス戦争 エ クリミア戦争 設問4 図Bについて適切に説明している文章を,次のア〜エの中から一つ選び,マーク解答用紙
今年も無事に公開に至ることができた。3巻が好評発売中なので,過去の年度,特に早慶・国公立以外を見たい方はぜひお買い求めください(初手宣伝)。 <収録の基準と分類> 基準は例年と同じである。 出題ミス:どこをどうあがいても言い訳できない問題。解答不能,もしくは複数正解が認められるもの。 悪問:厳格に言えば出題ミスとみなしうる,国語的にしか解答が出せない問題。 → 歴史的知識及び一般常識から「明確に」判断を下せず,作問者の心情を読み取らせるものは,世界史の問題ではない上に現代文の試験としても悪問である。 奇問:出題の意図が見えない,ないし意図は見えるが空回りしている問題。主に,歴史的知識及び一般常識から解答が導き出せないもの。 難問:一応歴史の問題ではあるが,受験世界史の範囲を大きく逸脱し,一般の受験生には根拠ある解答がまったく不可能な問題。本記事で言及する「受験世界史の範囲」は,「山川の『用
久々の高校世界史深掘りシリーズ。時代の区分はそれを定めた人の歴史観が現れるところであり,好きに定めてくれればよいし,便宜的なものだから不要なら決めてくれなくていいものである。とはいえ設定してくれた方が教育や議論の上で便利なのは,高校世界史でも同じである。教育指導要領では,中世と近世の切れ目と,近世と近代の切れ目が定められている。中世と近世の切れ目は,東アジアは明の成立(1368年),東南アジアは15世紀,南アジア(インド)はムガル帝国の成立(1526年),西アジアと中央アジアはティムール朝とオスマン帝国の成立(1370年・1300年頃),ヨーロッパは15世紀(象徴的な年号で言えば1453年だがバラ戦争は中世で扱う)である。一見すると法則性が無いように見えるが,どの地域もモンゴル帝国の解体と大航海時代(大交易時代)の始まりの影響という共通点があり,異論が出にくい切り方だろう。近世と近代の切れ
ここ10年ほどで大河ドラマを完走したのは「真田丸」以来である。お前,三谷幸喜作品しか見てないな? と言われるとはいそうですとしか答えようがない。これは私が三谷ファンだからということで許してほしい。「いだてん」は今にして思えば見ておいてもよかったかなと思う。 「真田丸」は,真田信繁という史実があまり残っていない,壮年期にのみ大活躍した記録が残っている人物を取り上げた。これによって,厳格な歴史考証陣営と綿密な考証を重ねて,可能な限り史実に寄せた青年期の約40回と,伝説上の真田幸村を描いた最後の約10回という切り分けを行って,バランスが問題になる歴史劇の史実と創作を上手く昇華させた。では,今回の鎌倉殿はどうか。この観点で見ると,本作は『吾妻鏡』をベースに描き,『吾妻鏡』が書いていない部分は自由に創作したという形になった。そのため最新の研究結果を上手く反映しているかと言われると,実のところ心もとな
No.33 谷川岳 〔標高〕1,977m 〔標高差〕約670m 〔百名山認定〕百名山 〔ヤマノススメ〕4巻 〔県のグレーディング〕2B 〔私的な難易度と感想〕2B 『ヤマノススメ』では言わずとしれた聖地オブ聖地。東京から電車で行くと最寄りの駅はモグラ駅として有名な土合駅に到着,長い長い階段を抜けて地上へ。さらに谷川岳ロープウェーの駅に向かって歩いていくと,滑落死した人の慰霊碑が。谷川岳はロッククライミングの聖地でもあるが,そのために日本で最も人が死んでいる山でもある。幸いにして登山道はそこまで険しくない。ロープウェーで一気に標高1300mまで登る。このロープウェー頂上の天神平の時点ですでに景色は絶景である。これだけ見て帰っても十分に面白いだろう。特に私が行った10月中旬は紅葉の盛りで人出も多かった。天神平からはさらにリフトを使って高度を稼ぐことができるが,ピークハントが目的の場合はやや遠回
本ブログの恒例企画なので。2018年の。 グループA(オランダ・エクアドル・セネガル・カタール) 関係が非常に薄そうな4ヶ国に見えるが,実はセネガルにある負の世界遺産ゴレ島をオランダが使っていた時期がある,つまり奴隷貿易という意外な接点がある。ゴレ島は17世紀後半に英仏と三つ巴で取り合いとなり,最終的にフランスが対岸のセネガルとともに占領した。なお,黒人奴隷貿易の輸送数ではポルトガル・イギリスが圧倒的に多く,次いでフランス,4番目がオランダである。オランダに黒人奴隷貿易当事国のイメージがあまり無いかもしれないが,17世紀の時点ではポルトガルに次ぐ主要国であった。18世紀に入ってから英仏が急速に輸送量を増やし,オランダを抜き去っていく。ゴレ島がフランス領となったのはその端緒である。他はちょっと見当たらなかった。ロイヤル・ダッチ・シェルがカタールの油田開発にかかわってたりしないかなと思って調べ
7月頃に香川・徳島に旅行に行っていたが,その報告を書いていなかった。しかも登山を伴わなかったためにTwitterにも書き残していなかったので(そういえば同行者も誰もつぶやいていなかった),簡潔にここにまとめておきたい。 最初に行ったのが屋島。今年の大河ドラマで登場したということと,招待してくれた香川県在住の友人がまだ行ったことがなかったからという理由で選定された。屋島は以前は名前の通りの島であったが,江戸時代に埋め立てられて四国の一部となったとのこと。そういうわけで陸路で行ける。電車とバスを乗り継いでまず到着したのが屋島寺。四国お遍路の八十四番目の札所である。 正直に言って特に期待はしていなかったのだが,宝物館が意外と豪華であった。有料だが入った方がよい。西日本は適当なお寺に入ると,盛っていない文化財が出てくるから卑怯だ。これが関東だと「その由来本当? 文化財指定されてないじゃん」というも
西美のリニューアルオープン記念展示。西美の所蔵品と,ドイツのフォルクヴァング美術館の所蔵品から,様々な風景画を展示したもの。本展は西美の所蔵品が多かったこともあって写真撮影がほぼ全面的に解禁されており,ツイッタラーとしては大変にありがたい展覧会であった。風景画好きとしてはそれだけでも嬉しいが,本展はサブタイトルが「フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで」で,つまりこれはフリードリヒがモネやゴッホと並ぶ売り文句になるところまで出世したことを示しており,私としては喜ぶほかない。マイナーキャラを細々と推していたら突然劇場版で主役に抜擢された気分である。まあ,フリードリヒは実際にはそこまでマイナーキャラというわけではないのだが…… ついでにリニューアルされた西美の建物について,先に触れておこう。今回の改装はル・コルビュジェの当初の構想に戻す意図があったそうで,前庭がずいぶんとすっきりしていたの
・『「センター試験」を振り返る』(大学入試センター,2020年) (1)から。予告通り,第三部の全年度の実施概要から,世界史A・Bの出題ミスに関する項目だけ拾い上げてみることにした。出題ミスのみで,問い合わせがあったこと等はどうでもいいものが多かったため省略している。こうして並べてみると1980年代前半の共通一次の開始直後は私大のようなミスが頻発しており,ノウハウが蓄積するまでの苦労が忍ばれる。共通一次が創設された理由の一つが「難問・奇問のあふれる大学入試に対する模範を示すこと」であったのだが,とはいえ当時は理想とすべき良問像そのものが固まっておらず,最初期の共通一次は現在で言うところの私大っぽい問題も多く,それも含めての試行錯誤期間だったと振り返ることができよう。 〇1980年の世界史,5 <問題>下線部①〜⑤から誤っている箇所を一つ選べ。【64】 ①7世紀後半に朝鮮半島の統一に成功した
・『「センター試験」を振り返る』(大学入試センター,2020年) 気づいていなかったのだが,令和2年(2020年)12月,翌月に最初の共通テスト本試験を控えたタイミングで,大学入試センターが『センター試験を振り返る』という本を発行していたことに先日気がついた。インターネット上で公開されているので,誰でも閲覧可能である。これがけっこう面白い。以下,気になった点を羅列しておく。長くなったので記事を2つに分け,(2)は明日更新する。 p.45から始まる論考1「ボーダレス化する高大接続」。高大接続の難しさは高校教育と大学教育の大きな違いに起因し,欧米諸国ではその接続期間として予備教育期間がとられる(ただし欧州では進学予備課程として中等教育の末期に,アメリカでは大学学部教育に置かれていてタイミングが異なる)。日本の場合はアメリカの制度に近いものの,実際には学部学科がおおよそ決まった状態で入学するため
・いちフェミニストが温泉むすめに願うこと(増田) → 3記事に及ぶ大作の旅行記と,温泉むすめという企画への批評。私は温泉むすめがそこまで好きなコンテンツというわけではなくて,行った温泉地にポップがあれば写真を撮るか程度の付き合いではあるが,けっこう共感するところが大きい。結果的に無意味または逆効果な設定が削られて,こうした騒動の中ではそれなりに意味があった,良い地点に落ち着いた部類のものだったのではないかと思うところは同感である。 → 自分も温泉巡りが以前からの趣味だったので温泉むすめは立ち上げからさほど時間の経っていない2017年4月頃から一応知っているが,目を離している隙にキャラがどんどん増えていて,一人一人の原画が違う割に急速に増やしているなという印象だった。似たようなところは初期のデレマスや艦これにもあったが,あれらと違うのは,デレマスは完全なオリキャラ,艦これは元ネタとキャラの距
<序> 大学受験では,大学・学部・日程ごとの傾向をつかむことが重要とされ,こと世界史においてそれは記号選択や論述の量といった出題形式と,出題される時代・地域・分野の偏りと解される。中世・近世ヨーロッパ史の出題が確実にある一橋大や,中国史の出題割合が高い名古屋大や立命館大などがその代表例であろう。その中で今回クローズアップするのは,早稲田大の文化構想学部・文学部では西洋美術史を扱った出題が必ず存在し,多くの作品の図版が掲載されるという点である。しかも,ほぼ必ず最後の大問にまとまって置かれているところまで定型で,これは極めて特徴的である。文化史の出題が多い傾向を持つ入試問題自体がさほど多くない中,さらに細分化された西洋美術史から必ず出題されるというのは類例を見ない。文学部に進む者は中国思想を志そうが社会学を志そうが西洋美術史は必ずたしなんでおくべしという強い意識が見られる。なお,例のモノクロで
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