サクサク読めて、アプリ限定の機能も多数!
トップへ戻る
GPT-4o
blog.livedoor.jp/yamasitayu
12月15 石山永一郎『ドゥテルテ』(角川新書) カテゴリ:政治・経済7点 政治においてアウトサイダーが大きな期待を集めて政権を獲得し、結局その期待に応えられずに支持率を落として政権後半はグダグダになる。これは民主主義においてよく起こることですし、例えば、フィリピンでもエストラーダ大統領などはそのパターンでした。 本書の主役であるドゥテルテ大統領も、なんとなくこのようなパターンをとるのではないかと思っていましたが、高い支持率を保ったまま今年大統領を退任しました。しかも、コロナの影響で経済が大きく低迷した時期を経験したにもかかわらずです。 本書は、そんなドゥテルテ大統領の人気の秘密と、フィリピンという国の現状を探った本になります。著者は共同通信でフィリピン支局勤務などを務めたジャーナリストで、マルコス時代のフィリピンから取材している人物になります。 評価としては「ドゥテルテびいき」ではあると
12月1 渡辺努『世界インフレの謎』(講談社現代新書) 8点 カテゴリ:政治・経済8点 今年の1月に講談社選書メチエから出た『物価とは何か』は、今年の経済書の中でもトップクラスの面白さだったと思いますが、本書は同じ著者による新書になります。 最初は、「このくらいのスパンだと焼き直しにしかならないのでは?」と思ったのですが、読んでみたら面白いですね。ここ最近、世界的に起きているインフレの謎を中心に、欧米各国と日本の違い、どのような処方箋があり得るのか? など、『物価とは何か』よりもアクチュアルな問題が論じられていて、新たな発見があります。 『物価とは何か』を読んだ人でも十分に楽しめる本であり、ここ最近のインフレの問題を考える上で必読の本と言えます。 目次は以下の通り。第1章 なぜ世界はインフレになったのか――大きな誤解と2つの謎第2章 ウイルスはいかにして世界経済と経済学者を翻弄したか第3章
11月24 國分功一郎『スピノザ』(岩波新書) 7点 カテゴリ:思想・心理7点 副題は「読む人の肖像」。「肖像」という副題からはスピノザという哲学者についてのスケッチのようなものかな? と一瞬思いますが。本書は400ページを超えるボリュームで、スピノザの主要な著作を「読んで」いきます。 スピノザはデカルトを徹底的に「読む」ことから哲学を始めたわけですが、本書はそれを追体験しながら、スピノザの主要著作である『エチカ』を「読む」という構成になっています。 スピノザの全体像をラフに描く前にいきなりテキストの読解に入っていくので、スピノザやこの時代について知らない人にとっては最初はややハードかもしれませんが、読み進めていくと徐々にスピノザという哲学者の特徴が見えてくると思います。 実は自分はスピノザの著作を読んでいないので、本書のスピノザの読解がどれくらい妥当性のあるものなのかということは判断で
11月17 佐々木雄一『近代日本外交史』(中公新書) 8点 カテゴリ:歴史・宗教8点 ペリー来航から太平洋戦争が終わるまでの近代日本外交史の歩みをたどったもの。著者は以前に同じ中公新書から『陸奥宗光』を出していますが、それとはまたガラッとスタイルが違います。 「あとがき」にも書いてあるように、『陸奥宗光』はぎっしりと情報の詰まった本で、「その感じで「近代日本外交史」をやったら500ページあっても足りないのでは?」と現物を見る前は思っていましたが、本書は本文で215ページほどとコンパクトな形になっています。 そのため、個々の出来事についてはそれほど深く追求せず、外務省を中心とした日本の外交の流れがわかるような形でまとめられています。 ただ、それでも読んでいいくと著者のこだわりが感じられる部分も多く、複数の著者による教科書的なものとは違う一貫した視座もあります。 さらに巻末には詳細な文献案内も
11月9 秦正樹『陰謀論』(中公新書) 9点 カテゴリ:政治・経済9点 ネットが普及して、あるいはSNSが普及して可視化されたことの1つが本書のテーマにもなっている「陰謀論」ではないでしょうか。 昔から「NASAは実はUFOと接触している」とか「M資金」とか陰謀論めいたことは語られてきたわけですが、SNSによって「ちゃんとしているはずの人」、例えば、大学の先生とか政治家が、陰謀論めいたことを発信したり紹介していることが可視化されました。 さらにトランプの扇動と「Qアノン」と呼ばれる陰謀論に乗せられる形で起こった2021年1月のアメリカ連邦議会襲撃事件は、陰謀論に人々を動かす力があることを見せつけました。 本書は、そうした陰謀論について、その内容を紹介するのではなく、「誰がどんな陰謀論を受け入れるのか?」ということを中心に実証的に論じています。 ただ、陰謀論について調べるには難しさもあります
10月27 橋場弦『古代ギリシアの民主政』(岩波新書) 9点 カテゴリ:歴史・宗教9点 古代ギリシア民主政研究の日本における第一人者ともいうべき著者による本。一般的な古代ギリシア民主政へのイメージを覆す刺激的な本になっています。 古代ギリシアの民主政はアテナイを中心に行われ、そのアテナイの民主政はサラミスの海戦での勝利を経てペリクレスのもとで絶頂を迎えるが、次第に衆愚政に陥ってペロポネソス戦争でスパルタに敗北してしまう。古代ギリシアの民生政というとこんなイメージを持っている人も多いと思いますが、著者によれば、民主政はその後のアテナイで復活して成熟を迎え、アテナイ以外のポリスにも広がっていったといいます。 さらに本書では考古学的な発見などを用い、当時にアテナイの社会の状況の復元を試み、プラトンやトゥキュディデスの本が伝えるものとは違った、そして現代の民主主義とも違う古代ギリシアの民主政の姿を
10月12 メアリー・C・ブリントン『縛られる日本人』(中公新書) 8点 カテゴリ:社会8点 日本の高卒の若年男性の苦境について掘り下げた『失われた場を探して』などの著作でも知られ、ハーバード大学のライシャワー日本研究所の所長も務める著者が、日本の少子化問題について、アメリカやスウェーデンとの比較などを通じて分析し、その解決方法を探った本になります。 本書の特徴の1つはマクロ的なデータの分析だけではなく、日本、アメリカ、スウェーデンの3カ国で実際に若い人々のインタビューし、生の声を集めているところです。 ただし、それだけではありません。 前半に関しては、当事者、しかも大卒以上の学歴を持つ人々の声を踏まえて議論を組み立てていることもあって、どうしても日本の男性や社会の「意識」が問題になることが多いのですが、後半になると日本社会の構造をより深く見ていくことで、この問題が単に「意識が高い、低い」
9月20 中西嘉宏『ミャンマー現代史』(岩波新書) 8点 カテゴリ:政治・経済8点 2021年のクーデター以来、内戦状態となりつつあるミャンマーですが、そのミャンマーの近年の情勢を追い分析した本。 近年の情勢といっても「現代史」というタイトルからは、独立以降の歴史をたどっているかなと想像しますが、本書が主に扱うのは1988年以降です。「史」とつく本の中でこれほど近い時代を扱っている本もなかなかないでしょう。 著者はサントリー学芸賞を受賞した『ロヒンギャ危機』(中公新書)も書いており、どのように棲み分けるのかと思っていましたが、本書は「同時代史」という感じで、著者の経験も折り込みながら、謎めいた軍の考え、アウンサンスーチーの誤算、今後の行方といったものを明らかにしようとしています。 ミャンマーはそもそもが不透明な国で、今後の行き先も不透明ですが、さまざまなアクターの背景を見ていくことでミャン
9月15 石井幸孝『国鉄―「日本最大の企業」の栄光と崩壊』(中公新書) 7点 カテゴリ:社会7点 1949年に誕生し、87年に分割民営化された国鉄の歴史を描いた本。著者は研究者ではなく、1955年に国鉄に入り、分割民営化時にJR九州の社長を務めた人物です。 そのため、国鉄の歴史を万遍なく書いたという感じではなく、あくまでも著者というアングルを通じた国鉄の歴史になります。例えば、著者はディーゼル機関車の開発に携わったことから、DD51などのディーゼル機関車における設計の工夫などマニアックなことも論じられています。 このように書くと鉄オタ向けの本に思われるかもしれませんが、著者は技術者であると同時に経営者でもあり、その経営者視点の部分も面白いです。 国鉄は万年赤字になってしまったのか? 国鉄における労組の問題、分割民営化の評価、厳しい経営を迫られているJR北海道の今後のあり方、そしてコロナに
9月6 三木那由他『会話を哲学する』(光文社新書) 7点 カテゴリ:思想・心理7点 ポール・グライスについて研究している著者が、主にここ最近の日本のフィクションの中の会話を題材にして、私たちの会話の中で何が行われているかについて哲学的に分析した本。 面白く読むことはできましたが、なかなか評価の難しい本で本書です。本書は会話一般について読み解こうとしているものの、本書でとり上げられている例はかなり特殊な例だと思いますし、そもそもフィクションにおける会話というのは何らかの意図があって書かれているものであり、日常生活の会話と違うような気もします。 ただし、マイノリティの人にとっては実は会話というのはこれくらいの戦略性に満ちたものかもしれないという感想もあって(著者は性的マイノリティ)、一概に「間違っている」とも言い切れません。 また、本書は漫画作品を数多く引用しているのですが(紹介の仕方は上手い
8月23 安達宏昭『大東亜共栄圏』(中公新書) 8点 カテゴリ:歴史・宗教8点 「大東亜共栄圏」というと、日本が太平洋戦争の目的として持ち出してきたスローガンというイメージが強いかもしれませんが、同時に大東亜共栄圏は経済圏の構想でもありました。 本書では、この経済圏としての大東亜共栄圏に焦点を合わせながら、それがいかに構想され、挫折したのかということを見ていきます。総力戦を戦うために、日本はアジアに資源を求めましたが、なんとか辻褄が合ったはずの机上の計画は現実には上手くいかなかったのです。 また、この大東亜共栄圏の軌跡を通じて、アジアの各地域の指導者たちのしたたかさや、日本の統治機構の問題点などが見えてくるのも本書の面白いところです。 目次は以下の通り。序章 総力戦と帝国日本―貧弱な資源と経済力のなかで第1章 構想までの道程―アジア・太平洋戦争開戦まで第2章 大東亜建設審議会―自給圏構想の
8月18 蔵前勝久『自民党の魔力』(朝日新書) 7点 カテゴリ:政治・経済7点 本書の帯には「自民党はなぜ勝ち続けるのか?」とあります。 確かに2012年の衆議院選挙で自民党が民主党から政権を奪還して以来、選挙をすれば自民党が手堅く勝つ状態が続いている一方、野党はバラバラで、近いうちに政権交代が起きる可能性は低いと言わざるをえません。 本書は、朝日新聞の政治部の記者によるものですが、この自民党の強さを、地方政治とそこで活動する地方議員のあり方を中心に探っています。自民党の強さの秘密は、デオロギーや組織力などではなく、「一番強いやつが自民党」という日本の地方政治のあり方にあるというのです。 前半を中心にややとっちらかっている部分もあるのですが、自民党や日本の地方政治を考える上で多くの面白い視点が盛り込まれた本です。 目次は以下の通り。序章 「一番強いやつが自民党」第1章 自民党の地方議員たち
8月9 稲増一憲『マスメディアとは何か』(中公新書) 9点 カテゴリ:社会9点 「〜とは何か」というのは新書にはよくあるタイトルですが、「マスメディアとは何か」というのは、なかなか大変なテーマだと思います。 その歴史を語って「何か」に答えるという方法をとれる分野もあるでしょうが、「マスメディアとは何か」と言えば、当然ながらその影響力の有無が知りたいところですし、さらに「インターネット時代におけるマスメディア」という近年になって浮上してきた問いにも答える必要があるからです。 ところが、本書はそうした要求に見事に応えています。 多くの人が知りたいであろう「マスメディアの影響力」について、さまざまな研究を紹介しながら検証し、さらにインターネットについても、今までの研究、そして著者らが行った研究も踏まえて、その影響を分析しています。 「メディアについて何か言いたいなら、まずはこの1冊から」という内
7月19 小川真如『日本のコメ問題』(中公新書) 7点 カテゴリ:社会7点 さまざまな食料品の価格が値上がりする中で、幸いなことにコメの値段は上がっていません。助かっている人も多いと思いますが、その理由はコメが基本的にすべて国産で、どちらかというと余っている状況だからです。 戦後、日本は食料不足から脱するためにコメを増産し、そして余るようになり、現在に至っています。本書はこのコメ余りの問題を「田んぼ余り」の問題として捉え、そこから今までの日本の農業政策の問題点や日本の農業の今後を探っています。 独特の用語も多く、ややわかりにくい部分もありますが、間違いなくユニークで興味深い議論だと思います。 農業には多面的な機能があるとよく言われますが、ではその多面的な機能とは何なのか? どうしたら多面的な機能を守れるのか? といった問題を考える上で、そして日本の農業のあり方を考えていく上でさまざまな知見
7月13 賀茂道子『GHQは日本人の戦争観を変えたか』(光文社新書) 7点 カテゴリ:歴史・宗教7点 副題は「「ウォー・ギルト」をめぐる攻防」。GHQが終戦直後に行ったとされる「ウォー・ギルト・プログラム」を扱った本になります。 この「ウォー・ギルト・プログラム」については評論家の江藤淳がとり上げたことで世に知られました。江藤は戦後民主主義の「自由」な言論空間が実はGHQによる検閲と洗脳によってつくられたということを『閉ざされた言語空間』で主張しました。 ただし、江藤は評論家ですし、たまたま目にした資料からこの政策について論じており、その実態はどうだったのか? どの程度の影響力があったのか? といった疑問は残ります。 本書は、アメリカが日本人のどんな戦争観を問題視し、どのようにアプローチしようとしたかを分析し、「ウォー・ギルト・プログラム」の実態を明らかにしようとしています。 江藤の主張
7月7 熊倉潤『新疆ウイグル自治区』(中公新書) 8点 カテゴリ:政治・経済8点 このテーマ、他のレーベルだと「絶望の新疆ウイグル自治区」とか煽り気味のタイトルを付けてウイグル人たちを強制収容の実態などを中心につくりそうですけど、中公新書は直球のタイトルで中国共産党による新疆ウイグル自治区統治の歴史を描くという、あえて地味な構成で本書をつくり上げてきました。著者も専門は中国やソ連の民族政策であり、その筆致は落ち着いています。 「あとがき」にもあるように、この落ち着いた筆致は意図的に選ばれたものですが、それが本書では成功していると思います。 現在の新疆ウイグル自治区の状況は、習近平という個人の政治スタイルだけでももたらされたものではなく、長年の対ウイグル政策の積み重ねの上にあることがわかりますし、その問題点は、ことさらセンセーショナルにとり上げようとしなくても十分に伝わります。 この問題を考
6月21 千々和泰明『戦後日本の安全保障』(中公新書) 7点 カテゴリ:政治・経済7点 去年、同じ中公新書から『戦争はいかに終結したか』(中公新書)を刊行した著者が、タイトルの通り、戦後日本の安全保障の歴史を「日米安保条約」「憲法第9条」「防衛大綱」「ガイドライン」「NSC」といったトピックに沿いながらたどった本になります。 日本の安全保障といえば、憲法の制約もあって「建前」と「実態」の乖離が問題となっており、また、「建前」を維持するために文言自体もややこしいものになっているのですが、本書を読むことで、そのいくつかについては見通しが良くなるのではないかと思います(もちろん「建前」と「実態」の乖離がなくなるといったことではないですが)。 防衛大綱の部分などはけっこうマニアックで、面白いと思えるかは人それぞれかもしれませんが、安保条約やガイドラインのところで出てくる、日米同盟と米韓同盟のリンク
6月14 山本章子・宮城裕也『日米地位協定の現場を行く』(岩波新書) 7点 カテゴリ:社会7点 『日米地位協定』(中公新書)で日米地位協定の実態と問題点を掘り下げた山本章子が、沖縄出身の毎日新聞記者である宮城裕也とタッグを組み、米軍基地が立地する地域や部隊や訓練が移転されている地域を取材した本になります。 本書の面白さは、宮城が沖縄出身、山本が琉球大学に勤めていながら、沖縄以外の地域を重点的に取り上げているところにあります。 宮城は高校2年生のときに沖縄国際大学に米軍ヘリを墜落した事件を間近で目撃し、ここから基地問題に関心をいだき、新聞記者となります。そして、三沢基地のある青森県に赴任するのですが、ここでの米軍基地を取り巻く人々のあり方や感情は沖縄とは違います。この「ズレ」がまずは興味深いです。 そして、さまざまな基地の現場を見ていくことで、騒音などの問題だけではなく、こと米軍に関しては
6月9 中北浩爾『日本共産党』(中公新書) 8点 カテゴリ:政治・経済8点 『自民党―「一強」の実像』(中公新書)や『自公政権とは何か』(ちくま新書)などの著者が今回挑むのは日本共産党。野党共闘の鍵となる存在でありながら、外側からはその内実がよくわからない日本共産党について、その歴史を紐解きながら実像に迫っていきます。 『自民党―「一強」の実像』や『自公政権とは何か』では、基本的に現在の意思決定や選挙対策などをとり上げて分析していましたが、今回の『日本共産党』の記述のメインとなるのはその歴史です。 これは日本共産党が現存する政党の中で最も古い歴史を持ち、その政策や意思決定の過程がかなりの部分、過去の積み重ねによって規定されているからです。 そのため、本書は本文だけで400ページ以上あり、なおかつソ連が崩壊するまでの記述で300ページ近くあります。そのため、個人的には面白く読めましたが、前半
5月17 小川幸司・成田龍一編『世界史の考え方』(岩波新書) 8点 カテゴリ:歴史・宗教8点 「シリーズ 歴史総合を学ぶ」の第1巻。今年度から始まった高校の「歴史総合」を見据えて、「歴史総合」の議論にも大きな影響を与えてきた著者2人が、岸本美緒、長谷川貴彦・貴堂嘉之・永原陽子・臼杵陽をゲストに迎えて、歴史に関する本を読みながら近現代を中心とした世界史と歴史学について考えるという構成になります。 章ごとに3冊の本がとり上げられており、それを著者2人+ゲストが紹介しながら、時代の特徴や歴史学の展開を語っていく形で、刺激的な議論がなされています。 ただ、前半については文句がなしですが、後半の本のセレクションについては個人的には大いに問題があるように感じます。 第一章 近世から近代への移行とり上げられている本:大塚久雄『社会科学の方法』、川北稔『砂糖の世界史』、岸本美緒『東アジアの「近世」』ゲスト
5月10 濱本真輔『日本の国会議員』(中公新書) 9点 カテゴリ:政治・経済9点 国民の代表でありながら、多くの人がその姿に納得しているとは思えない日本の国会議員。そんな日本の国会議員の姿にデータを使って多角的に迫ったのが本書になります。 中公新書には林芳正・津村啓介『国会議員の仕事』という現職の国会議員がその活動について綴った本もありますが、本書はあくまでも外側から、どのような人物が国会議員になり、どんな選挙活動を行い、国会ではどのような仕事をし、政党の中でどのようにはたらき、カネをどのように集め、使っているかということを分析した本になります。 過去と現在、日本と海外、与党と野党といった具合に、さまざまな比較がなされているのが本書の特徴で、この比較によって、問題のポイントや解決していくべき課題といったものも見えてきます。 国会議員ついて知るだけではなく、日本の現在の政治を考える上でも非常
5月3 須田努『幕末社会』(岩波新書) 9点 カテゴリ:歴史・宗教9点 出た当初はスルーしていたのですが、いくつか面白そうな感想を目にして読んでみたら、これは面白いですね。幕末において幕藩体制がいかに緩んでいたか、開国からはじまる社会変動がどのようなものであったのかということが庶民の目線から描かれています。 とり上げられている事例は関東・東北・甲信などの東日本のものが多く、京都と西国雄藩中心に描かれることが多い幕末の歴史について、東国の様子を知ることができるのも興味深いところです。 天狗党や渋沢成一郎のつくった振武軍など、去年の大河ドラマの「青天を衝け」と重なっている部分も多く、去年出版されていれば大河ドラマのよき副読本となったでしょう。また、新選組についての記述もありますし、土方歳三の義兄の佐藤彦五郎の活動もかなり詳細に追っています。新選組好きも面白く読めると思います。 「民衆史」という
4月19 青木健太『タリバン台頭』(岩波新書) 8点 カテゴリ:社会8点 2021年8月、アフガニスタンの首都・カーブルがターリバーンによってあっという間に陥落させられた出来事は、そこから逃げ出そうとする人々の映像と相まって衝撃的なものでした。 2001年の9.11テロ後にアメリカの攻撃によって政権を追われたターリバーンが、まさか20年後にこのような形で政権に復帰しようとは、当時からは想像できなかったことです。 本書は、90年代半ばに「世直し運動」として活動を始めたターリバーンが政権を掌握し、その後アメリカの攻撃によって政権を失ってからいかにして復活してきたかを追っていますが、そこで明らかになるのはターリバーンの「すごさ」というよりも、それまでのアフガニスタンの状況の「ひどさ」です。 そして、「イスラーム原理主義」の組織として扱われがちなターリバーンの内実について、アフガニスタンの風土に根
4月5 中島隆博『中国哲学史』(中公新書) 7点 カテゴリ:思想・心理7点 「哲学」というと、どうしても西洋のものということになり、中国や日本のものは「思想」という形で括られることが多いですが、本書は、あえて「哲学」という言葉を使い、西洋哲学や仏教との比較や対話も試みながら、中国哲学の歴史を描きだしてます。 中国の思想を紹介する本は数多くありますが、基本的には諸子百家を中心にそれぞれの違いなどを論じたものが多いです。そうした中で、本書は、中国内の関係(例えば孔子と老子)だけではなく、中国の外から来た思想との関係(例えば儒教と仏教、キリスト教)を見ていくことで、より立体的な中国哲学の姿を構築しています。 索引なども入れれば360pを超える本で、内容的にも難しい部分を含んでいるのですが、今までにないスケールで中国の思想を語ってくれている本であり、中国社会を理解していく上でも興味深い論点を含ん
3月28 菅原琢『データ分析読解の技術』(中公新書ラクレ) 8点 カテゴリ:社会8点 『世論の曲解』(光文社新書)で政治をめぐる世論調査や分析に鋭い批判を行なった著者によるデータ分析の入門書。 ただし、例えば伊藤公一朗『データ分析の力』(光文社新書)が因果推論のさまざまな手法を紹介し、データ分析のツールを教える本だったのに対して、本書は世に出回っているデータ分析の問題点を指摘し、その読み解き方を教えるものとなります。 その点では、本書はメディア・リテラシーの本でもあり、少し古い本になりますが谷岡一郎『「社会調査」のウソ』(文春新書)と同じ系譜にある本とも言えます。 近年ではデータが重視される中で、マスメディアやネットにもさまざまなデータ分析が溢れていますが、これらの中には明らかにおかしいものもあれば、一見すると鋭いようでいて実は何かがおかしいものもあります。 本書はそうした玉石混交のデータ
3月7 アジア・パシフィック・イニシアティブ『検証 安倍政権』(文春新書) 8点 カテゴリ:政治・経済8点 1回目の内閣は短命に終わりましたが、安倍晋三は2012年に首相にカムバックすると連続で2822日在職し、憲政史上最長の政権を維持しました。 「なぜそれが可能だったのか?」、「安倍政権はいかなる成果を上げたのか?」「何ができなかったのか?」といったことを政治学者が中心となって分析したものになります。 著者名にきている「アジア・パシフィック・イニシアティブ」は聞いたことがないかもしれませんが、前身は『民主党政権 失敗の検証』(中公新書)を出した日本再建イニシアティブで、理事長は同じく船橋洋一が務めています。 誰がどのような部分を担当しているかは以下を見てほしいのですが、個人的には第2章、第3章、第5章、第9章を特に興味深く読みました。 毀誉褒貶のある安倍政権ですが、本書ではその強さ、そ
2月28 木村幹『誤解しないための日韓関係講義』(PHP新書) 7点 カテゴリ:政治・経済7点 韓国といえば、K-POPをはじめとして韓国の文化がTVなどで好意的に紹介される一方で、一部の論壇誌やネット記事では「韓国経済崩壊!」みたいな見出しが踊るという、日本のメディア上ではよくわからない状況になっています。 そんな状況に対して、さまざまなデータを用いて、韓国の現在の姿と、そこから生じる日韓関係の変質を丁寧に論じた本になります。 韓国人の「民族性」を明らかにするような書き方ではなく、韓国の経済発展や韓国を取り巻く国際情勢の変化を示すことで、韓国政治の変質を説明しています。 また、「日本は韓国を植民地支配していない」という言説に対しても、丁寧にその問題点を指摘しており、歴史認識問題を考える上でも参考になる本ではないかと思います。 目次は以下の通り。第1章 ステレオタイプな日本の韓国認識第2章
2月7 清水真人『憲法政治』(ちくま新書) 7点 カテゴリ:政治・経済7点 史上最長の政権となり、以前から憲法改正に意欲的だった安倍晋三でしたが、彼の手を持ってしても憲法改正は実現しませんでした。衆議院は自民と公明で2/3以上の議席を確保し、参議院でも自民・公明に改憲に前向きな維新を加えて2/3を上回ったことがあったにもかかわらずです。 なぜ、憲法改正ができなかったのか? 本書はこの疑問に答える本と言えるでしょう。度重なる選挙と突然の天皇の退位など、憲法改正がさまざまなスケジュールに翻弄されたことがわかりますし、憲法改正の発議は国会の専権事項であるとの考えがスピード感を持った審議を難しくしていることもわかります。 この他にも本書は、コロナ禍における憲法改正の議論、今後の憲法改正の課題などについても述べていますが、著者が日経新聞の政治記者で『平成デモクラシー史』(ちくま新書)を書いた人物だと
1月31 辻本雅史『江戸の学びと思想家たち』(岩波新書) 8点 カテゴリ:思想・心理8点 江戸時代の思想家をとり上げた本ですが、それぞれの思想家の思想を綿密に解説するのではなく、彼らがとった学びのスタイルと利用したメディアに注目して論じていることが本書の大きな特徴です。 同じく江戸の思想家をとり上げた本としては田尻祐一郎『江戸の思想史』(中公新書)があり、面白く読んだ記憶がありますが、『江戸の思想史』が儒学から蘭学までさまざまな人物をとり上げたのに対して、こちらは山崎闇斎、伊藤仁斎、荻生徂徠、貝原益軒、石田梅岩、本居宣長、平田篤胤ととり上げる人物をかなり絞っています。 その代わりに本書が注目するのは彼らの学び方であり、受容のされ方です。ここに注目することで本書は思想だけはなく、江戸時代の社会のあり方にまで考察を広めています。 日本史の教科書だとどうしても断片的にしかわからない思想家たちに、
次のページ
このページを最初にブックマークしてみませんか?
『山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期』の新着エントリーを見る
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く