映画の内容は、大学時代に出会った男女が、自分たちの趣味があまりにもぴったりと合うことに感動し、そのまま付き合い、同棲にまで至るのだが、ふたりとも社会に出て仕事が忙しくなるにつれ関係性が変わっていく……という話。二人が好きな本や漫画や音楽の名前がこれでもかと登場し、文化的固有名詞が詰め込まれているのが特徴的な、恋愛物語である。 しかしこの映画、とにかくなんだかみんなの語りたい欲を誘発するらしく、各所で感想ブログを読むことができる。いろんな感想を読み漁っていたのだが、なかでも面白いな、と個人的に感じたのは、語弊をおそれずに言うと――主人公の麦・絹よりも年齢が上のひとびとたちの感想で、「彼らのありふれた凡庸性こそが、この映画のキモである」と語られることである。 (ここからネタバレ含みます、ラストの解釈を書きますのでご注意を)。 とくに私が印象的だったのは、ラストの重要なファミレスシーンの解釈であ
「弱者男性」と呼ばれる人々の実態と彼らが抱えている問題について、独自の定量/定性調査と豊富な資料から網羅的にまとめられた本で、「弱者男性」という言葉を取り巻く状況に興味がある人の入門書としてとてもわかりやすい良書でした。 近年ネットを中心に可視化されつつある「弱者男性」にまつわる問題ですが、現状支援やケアはほぼなく、社会構造的に弱い立場におかれているにもかかわらず、「有害」扱いされたり、嘲笑の対象になっているのが特徴です。 「社会構造的に弱い立場におかれている」人々の支援・地位向上・エンパワーなどを行ってきたフェミニズムとの相性も悪く、フェミニズムから派生した男性学でも同様の傾向です。 例えば、おおよそ1.5億の詐欺と詐欺幇助の罪で実刑判決を受けた「頂き女子りりちゃん」こと渡邊真衣被告の求刑に対して、フェミニスト弁護士の伊藤和子さんは「男性優位社会の秩序を乱した女子の朝憲紊乱の振るまいを一
『8月31日のロングサマー』(伊藤一角/講談社) 2024年5月22日に最新刊となる第4巻が発売された『8月31日のロングサマー』(講談社)。 物語の舞台は、夏休み最終日の8月31日でタイムループしている世界。それに気づいているのは、2人の高校生・鈴木くんと高木さんだけ。 何度も繰り返される8月31日の中で、彼らの成長していく様子や恋愛模様を繊細に描き出し、多くの読者から共感を呼んでいる。 本記事では、漫画家の伊藤一角さんと、担当編集の鈴木さんにインタビューを実施。作品に込めたメッセージや創作の秘密に迫った。 創作の根っこにあるのは、恋愛をきっかけに世界が広がった原体験 ――『8月31日のロングサマー』のアイデアや創作のきっかけを教えてください。 伊藤一角(以下、伊藤):『8月31日のロングサマー』は本当に偶然思いついた話で、創作のきっかけになにかドラマティックな出来事があるわけではないん
北欧のオトメイトと呼ばれるビジュアルノベルのパブリッシャー設立を目標に日夜夢を追いかけている、Miyaです。夢は大きい方がいいですよね。 ということで、みなさんお待ちかね(?)の欧米、乙女ゲーム事情の続きです。 近年、NetflixやAmazon Prime,Crunchyrollなどのストリーミングサービスがどんどんと欧米でアニメを流すようになり、アニメは一般の人たちの目に届くようになりました、そして個人的にも海外在住者としては涙が出るほど、とてもありがたい存在です。 そんな日本のサブカルが英語圏広まってくると、相乗効果で芋づる式にいろんなジャンルやコンテンツが日の目を浴びていきます。 とくにビジュアルノベルについては、当初Steam内ではそういったジャンルが存在しないも同然と思われていた(こちらの記事でその詳細を述べています)中で、日本向けのものが日本国外で売れているという話も出てきて
2024年3月30日、テレビドラマ『初恋ハラスメント~私の恋がこんなに地獄なワケがない~』(中京テレビ)がXでトレンド入り、Yahooリアルタイム検索で一位を獲得するなど、大きな話題となった。 キービジュアルやタイトルから、キュンキュン系の恋愛ドラマだと誰もが思うだろう。くわえてローカル局による深夜の単発ドラマだ。それがなぜ、ここまで大きな話題になったのだろうか。それは、計画的に散りばめられた不穏な“違和感”が理由となっている。 「このドラマ、何かがおかしい」。そう感じた視聴者によって考察が飛び交い、SNSを中心に情報が拡散。世間の興味を存分に惹きつけた最高の状態で、放送に至ったのだ。 今回は、そんな大きな波を起こした本作の監督・宮岡太郎氏と、プロデューサー・綾田龍翼氏にインタビュー。大成功を収めたこのプロモーションはいかにして生み出されたのか。また、その戦略を可能にした作品の構造について
むしろこの湿らせるという行為を味わうために渇いていたいのかもしれない。手段と方法が逆転してしまうというのは本末転倒だが、俺の性(さが)はそこまで求めてしまっているのだ。 そう、qureateの新作を!(ここでタイトルコール) ということで、いよいよ春……春が来た……! いや、すでに初夏だが。2024年4月18日、Nintendo SwitchとSteam用にとんでもないタイトルが発売された。いや、されてしまった! それが『バニーガーデン』である! 自分は本作の情報公開後から鋭い眼光で本作のことをチェックしており、「ふふふ……さすがqureateだ」と膝を打った。そしたら無脊髄反射で足がぴょーんとなった。 知らないピュアボーイのために説明すると、いや、説明の必要はないだろうが、念のため説明しよう。これは記事なんだから。 qureateさんは公式サイトを見るとわかるように、非常にクレバーな紳士
40歳の主婦・茜はある日、中学時代の塾講師・今井が彫刻家になったことを知る。しかし彼が発表した上半身裸の少女の彫像が、同じ塾に通っていた親友・紫がモデルなことに気づいてしまう。26年前、14歳の紫と今井は「恋愛」をしていた――。 連載2周年を迎えた渡辺ペコさんの漫画『恋じゃねえから』は、「創作と加害」の問題をリアルに描き出して読者を毎月ザワつかせている。 未成年との恋愛は成立する? 「推し」のスキャンダルにファンはどう向き合えばいい? クリエイターの才能と性加害の関係は? 自分が当事者ではない「誰かの問題」との距離感は? 『恋じゃねえから』©渡辺ペコ/講談社(以下同) 「恋愛は『興味を持つのが難しいもの』でした」 ――『恋じゃねえから』は、14歳の少女と成人男性の“恋愛のような”関係がスタートになっています。でもタイトルは、この関係が「恋愛」ではないと言っているようにも見えます。渡辺さんに
ぼくはガールズバーやキャバクラの類に行ったことがいちどもない。なんならふつうのバーや居酒屋すらほとんどない。 そもそもお酒が飲めないし、人と話すのも苦手だからだ。ひとりでゲームで遊んでいたほうがよほどいい。 よく「いやなことがあったからキャバクラに行って気持ちを晴らす」みたいな話があるが、意味がわからない。いやなことにいやなことを重ねて、いったいなにが楽しいのか。 この『バニーガーデン』の主人公である乾田杯人(かんだはいと)は、会社をクビになってしまったらしい。 現実の日本であれば、退職勧奨はともかく、社員の解雇はよほどのことがないと難しい。推測だが、単なるミスのレベルではなく、信用した誰かにだまされて悪事の片棒をかついでしまった、くらいのことはありそうだ。 杯人の「クビを伝えられたときだって、上司さん泣いてくれてたもんな。君の力になれなくて申し訳ない、って。」というセリフからも、その可能
非正規雇用が多くの若者を苦しめてきたパート・アルバイト・有期契約・嘱託社員・派遣社員など、様々な形態がある「非正規雇用者」ですが、平均年収は決して高くありません。 国税庁の「民間給与実態統計調査」(令和3年版)によると、非正規雇用者全体の平均年収は198万円(正規雇用者全体の平均年収は508万円)ですが、そのうち男性は平均年収267万円(正社員は545万円)に対し、女性の非正規雇用者の平均年収は162万円(正社員は302万円)です。この数字は決して現代日本社会で生活する上で十分な金額とは言えません。 1986年に施行された男女雇用機会均等法で、正社員として働く女性は増え、「おひとりさま」人生を選択できる女性は増えました。 しかし、同時に雇用が不安定な非正規雇用者も、これ以降増加していくのです。男女雇用機会均等法施行と同年にスタートした労働者派遣法は、当初の「一部の限られた技能を持つ13業務
評論家の荻上チキ氏による書籍『もう一人、誰かを好きになったとき ポリアモリーのリアル』(新潮社)は、相手の合意を得たうえで、ふたり以上の恋人やパートナーを持つ「ポリアモリー」について、日本に暮らす当事者100人以上に取材・調査してその実態を伝える国内初のルポルタージュだ。不倫や浮気とは何が異なるのか? 嫉妬の感情は生まれないのか? 社会のなかで抱える困難とは? 今なお日本ではあまり理解が進んでいないポリアモリーについて、荻上チキ氏の見解を聞いた。(編集部) 荻上チキ『もう一人、誰かを好きになったとき ポリアモリーのリアル』(新潮社) ーーポリアモリーとは、複数愛者のこと。〈一対一の恋愛を前提とするモノガミー=単数婚と異なり、複数の相手との関係性を指し示す言葉〉だと、ご著書の『もう一人、誰かを好きになったとき ポリアモリーのリアル』(新潮社)で書かれています。本作のなかにあったように、浮気を
21.12.07パンディット 「すべての生は死を前提に存在する」第2弾 宮台 真司さん(社会学者、映画批評家、東京都立大学教授) × 真鍋 厚さん(評論家、著述家) 【要旨】 社会学者・宮台真司さんと評論家・真鍋厚さんによる死をテーマにしたトークセッション。 R3.4月に開催し大好評を得たイベント「すべての生は死を前提に存在する」の第2弾。 コロナ禍になってわたしたちの社会は大きく変化。感染症という自然の猛威に対する脆弱さだけでなく、不要不急とされた営みに関する感受性も暴かれた。これは生死をめぐる価値観の分断を象徴する出来事でもあった。問題の深刻さに気付いた敏感な人々は、コロナ禍をきっかけに良き人生とは何か、死とどう向き合うかについて熟考し始めている。 「〈閉ざされ〉と〈開かれ〉」「没人格化と鉄の檻化」「死の処方箋と宗教」などのキーワードを手がかりに議論を展開。 ーーーーーーーーーーーーー
結婚相談所の経営者として婚活現場の第一線に立つ恋愛・婚活アドバイザーの植草美幸氏と、人気漫画家として男女の心理を描いてきた東村アキコ氏。東村氏の周囲では、20代、30代と独身を謳歌した男女が、40代を前に次々に「結婚したい」と言い始めているという。なぜそのような現象が起きているのか。2人が現代の結婚観、恋愛観をあぶりだす。 パートナーはいないけど「結婚します」と宣言 東村アキコ(以下、東村):私は職業柄、知り合いが多いんですが、東京に出てきて約20年、結婚式に呼ばれたことがものすごく少ないんです。私自身は28歳で結婚して出産。その後、離婚して子育てに追われていました。 だから、30代は、仕事をバリバリやって趣味に時間とお金を使って楽しそうにしている独身の人たちを見て「さすが東京、さすが現代社会」と思っていました。ところが、30代後半くらいからその人たちが「結婚したい」と言い出した。 年賀状
瀬尾まいこの同名小説を原作とした三宅唱監督の最新作『夜明けのすべて』が、2月9日から公開される。朝ドラ『カムカムエヴリバディ』で共演したSixTONESの松村北斗、上白石萌音が主演を務める本作では、重いPMS(月経前症候群)を抱える藤沢さんと、パニック障害を持つ山添くんが同じ職場で働きながら、次第にお互いのことを知り、つながっていく様子が描かれる。第74回ベルリン国際映画祭【フォーラム部門】に正式出品が決定し、世界からも注目を集めている。 三宅監督は「ふたりが魅力的で、そして恋愛で解決する話ではないのがいい」と企画当初から考えていたという。大きなドラマこそないが、観た人の心をたしかに揺さぶるこの作品に秘められたものとはなんなのか。作家の鈴木みのりが、三宅監督へのインタビューを通じて綴る。 雨の降る駅前で、月に一度のPMS(月経前症候群)で苦しむひとりの女性の姿。主人公のひとり藤沢さん(上白
あってはいけない差別、使ってはいけない言葉。 昨今の「反・上下差」の動きは、2015年に国連加盟国で採択されたSDGsの広まりにより急速化した。 差別や格差を無くし、個々の多様性を認め横並びで生きていきましょう、という世の中になったかに見えるものの……。 貧困差別、ジェンダー差別、容貌差別等々、頻繁に勃発する炎上発言に象徴されるように、水面下に潜った上下差への希求は、根深く残っているのではないでしょうか。 名著『下に見る人』の書き手、酒井順子さんが、生活のあちこちに潜む階級を掘り起こしていく連載です。 昨年秋頃から、マッチングアプリのコマーシャルが、テレビでも流れるようになってきました。従来は、いわゆる出会い系のサイトを規制する法律でテレビCMが認められていなかったのが、解禁されたようなのです。 マッチングアプリの存在感は、ここ数年で、とみに高まっているのでした。街中のカフェなどでは、明ら
芸能人や政治家の不倫報道などを目にすると、思わず皮肉を言ってからかいたくなるが、「そもそも人は一人の人だけをずっと愛するようにできているのか」と問われると、答えに窮するのではないだろうか。それでは、双方が合意のうえで複数の恋人を持つことは可能なのか。 実際にそのような考え方を持ち、実践する人が増えているらしい。『もう一人、誰かを好きになったとき ポリアモリーのリアル』(新潮社)を上梓した、評論家の荻上チキ氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト) ──荻上さんは、ポリアモリー(複数愛)について本を書かれました。ポリアモリーとは何でしょうか? 荻上チキ氏(以下、荻上):ポリアモリーは、日本語では「複数愛」などと訳されます。合意に基づいて複数の人と同時に付き合う、あるいは、同時に複数の人を好きになる人、こういった人々のことを「ポリー」、そのような人たちによる恋愛の実践を「ポリアモリー
[インタビュー]乙女ゲームのトップランナー対談が実現! オトメイトと「恋と深空」のInfoldgamesが語る,ときめきの作り方とは ハイクオリティな3D表現力を持つ乙女ゲームで話題となっているInfoldgamesの新作アプリ「恋と深空」(iOS / Android)が,2024年1月18日にリリースされることを目前にして,同社の開発チームと,オトメイト(外部リンク)のキーパーソンとの対談が行われた。 Infoldgamesの皆さんはかつて「薄桜鬼」(外部リンク)などオトメイト作品のプレイヤーだったということで,かねてより対談を熱望していたようだ。なお,Infoldgamesのお三方は上海からオンラインで参加。東京にいるオトメイトの皆さんとの間に,通訳を挟みつつ対談が行われた。 オトメイトの皆さん アイディアファクトリー代表取締役社長 佐藤嘉晃氏(右) 「薄桜鬼」シリーズプロデューサー
「伝統的な家族観」という言葉を耳にすることがある。それは多くの場合、異性間での一夫一婦による結婚という形式を指している。 そしてその言葉は、変わろうとする社会の兆しや、日本ではマイノリティである価値観や性的志向を持つ人の声を塞ごうとする時にも、良いように使われてきた。 日本社会ではむしろ、この「伝統的な家族観」から逸脱する人間や行為が極端に忌避される場面も見られる。 でも、本当にそれは日本において「伝統的」なのだろうか? そしてどのような経緯から、そうした価値観は形成されてきたのか? 改めて立ち止まって考えてみたい。 本稿は、既婚者専用のマッチングアプリ「Cuddle」のプロモーション記事である。 既婚者マッチングアプリ - Cuddle(カドル) | 出会い・セカンドパートナー 「Cuddle(カドル)」は結婚後に異性と交流したい方を応援する、既婚者専用マッチングアプリです。既婚者同士お
トップ > 記事 > 乙女ゲーム30年のあゆみ 第2回 理想の「女性向けゲーム」を求めて:「ネオロマンス」が築いた基礎(1985年〜90年代) 向江 駿佑 女性向けに制作されるゲームで、男性キャラとの恋愛要素があるなどの特徴を持つ「乙女ゲーム」の30年の歴史をたどっていく本連載。第1回は乙女ゲームの定義やその名称の広まりを考察しましたが、第2回からは年代ごとに作品をみていきます。まずは乙女ゲームの始まりとされる1994年発売の『アンジェリーク』の衝撃と余波、そしてこれまでまとまった形で言及されたことのなかった、それ以前のさまざまな取り組みにフォーカスします。 連載目次 第1回 「乙女ゲーム」という名称はどのように広まったのか? 第2回 理想の「女性向けゲーム」を求めて:「ネオロマンス」が築いた基礎(1985年〜90年代) 90年代のアンジェリーク関連製品 今回から10年ごとに時代を区切って
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