【ロンドン=木村正人】英国の田舎町で猫と暮らす老女がひっそり息を引き取った。老女は誰にも自分の過去を語らなかったが、自宅にはフランス戦功十字章が残されていた。女性はノルマンディー上陸作戦の直前、仏に送り込まれて鉄道の破壊工作を支援したスパイで、ナチスの拷問にも耐え抜いたことが英公文書で明らかになり、祖国を守ったヒロインへの哀悼が静かに広がっている。 英イングランド南西部のトーキーで9月初め、アイリーン・ニアンさんが89歳で亡くなった。トーキーは、作家アガサ・クリスティーの出生の地として知られる。 アイリーンさんが所属した戦時下の英特殊作戦執行部(SOE)に詳しい英戦史家M・R・D・フット氏(90)や英公文書によると、アイリーンさんは1944年3月、ナチス・ドイツの占領下にあったフランスにパラシュートで降下。23歳の誕生日を迎える数日前だった。 SOEはチャーチル英首相によって組織され、欧州