私がかつて戦ったミャンマーのカレン州(現カイン州)は、大戦中旧陸軍が展開した地域のひとつだ。特に終戦直前は、北部の山岳地帯にいた部隊の撤退路にもなったという。そこには今でも、はかなく散った日本兵の無念の想いが残されているようだ。 「おい、聞けって…ほんまやって」 とある早朝の事だ。サルウィン川とモエイ川の合流地点ほど近くにあった、カレン民族解放軍司令部マナプロウ(当時)。そこで、マラリアを発症して寝込んでいた日本人の戦友Aが、必死に我々に訴えていた。 「夢でも見たんだろ。うなされとったし…」 「ほんまに出たんやって!声までかけてきよったし…」 まだ熱は下がっていなかったが、Aの目は真剣そのものだった。 彼の話によるとこうだ。 深夜目を覚ますと、部屋の中に人の気配を感じたそうだ。その方向に目をやると、少し離れたところに、ボロボロの軍服を着た日本兵が柱にもたれかかるように座って、じっとAを見つ