『くるまの娘』(宇佐見りん 著)河出書房新社 私は家族制度を否定している。否定しなければあの狭い家では生きていけなかった。私を育てた善良な人たちと、家族という名のもとにおかしくなった距離感を別のものとして捉えるためには、私とあの人たちが共に暮らす構造そのものを批判しなければならなかった。あの人たちが悪いのではない。構造が悪い。そう言ってやることであの人たちを憎まないようにしたかった。だがこの構造を拒む姿勢は、自分も含め、数多の個を取りこぼす傲慢さなのかもしれないとも思う。宇佐見りん『くるまの娘』を読んだ後では、私は何も言えない。 『くるまの娘』はある家族の地獄を描いた物語である。普段は穏やかだが、ひとたび火がつけば暴力をふるう父、脳梗塞の後遺症とアルコール依存に苦しみしばしば錯乱する母とともに、主人公かんこは暮らしている。兄も弟も家を出て行った。かんこだけが残される。一家は祖母の葬儀のため