書評:笠井潔『例外状態の道化師 ポスト9.11文化論』(南雲堂) 笠井潔は、とても優秀な批評家なのだが、その彼が実力相応に評価されないのは、もっぱら彼の「信用できない人間性」と、その「押し付けがましい政治性」にある、と断じていいだろう。「評論家として優秀であれば、人間性なんてどうでもいい」という「娯楽としての批評消費」的な考え方もあろうが、「有能と不誠実」が結びついたものほど危険なものはないのだから、多くの賢明な人たちが笠井潔を敬遠するのは、決して故なきことではない。笠井の批評を、のんきに肯定していられるのは、笠井潔という評論家の本質までは踏み込まず、その言葉の上っ面を断片的に消費しているかぎりにおいて、なのである。 笠井が「『容疑者X』論争」でミステリ界を去るまで、元笠井潔ファンとして「笠井潔葬送派」を名乗り、笠井潔を徹底して批判し続けてきた私としては、笠井ひさびさの単著評論書となる本書