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sskdlawyer.hatenablog.com
1.「明日から来なくていい」とは、法的にはどういう意味だろうか 雇い主から「明日から来なくていい」と言われたと相談を受けることがあります。 これを解雇だと認識したうえで、解雇無効を主張すると、使用者側から、 「解雇ではない。退職勧奨だ。出勤していないことから合意退職が成立したと認識していた。」 という反論が寄せられることがあります。 解雇なのか合意退職なのかは、法的にはかなり重要な問題です。 解雇の場合、客観的に合理的な理由・社会通念上の相当性が認められなければ、その効力が認められることはありません(労働契約法16条)。 他方、合意退職の場合、錯誤、詐欺、強迫など、意思表示に何等かの問題が認められない限り、基本的には有効な合意として取り扱われます。 そのため、使用者側としては基本的には退職勧奨とそれに続く合意退職として理解したいのではないかと思います。 ただ、合意があると主張することが事実
1.クレームへの対応方法 顧客からのクレームに対し、顧客と従業員のどちらに非があるのかを見極めることなく、取り敢えず自社の従業員に謝らせるという方法があります。 それが揉め事を丸く収めていた時代もあったのだと思います。 しかし、こうした手法は、自社の従業員を苦しめ、不満を蓄積させてしまうため、労務管理の観点からみれば、決して適切とはいえません。 この取り敢えず部下を謝らせるというクレーム対応の手法の適否が争われた事件が、判例集に掲載されていました。 甲府地判平30.11.13労働判例1202-95甲府市・山梨県(市立小学校教諭)事件です。 2.事案の概要(犬に噛まれて飼い主に損害賠償の話をしたら、勤務先学校にクレームを入れられ、管理職から謝罪を強要された) 本件で原告になったのは、甲府市の市立小学校の教諭の方です。 平成24年8月26日、地域防災訓練の会場に向かう途中、原告教諭は自身が担任
1.落第生を再試験で救済しようとした大学教授が懲戒処分を受けた事件 学期末試験の成績が振るわず、単位を取得できなかった学生から泣きつかれ、再試験で学生を救済しようとした大学教授が、停職8か月の懲戒処分を受けた事件が公刊物に掲載されていました(山形地判平30.12.25労働判例ジャーナル87-95 学校法人東北芸術工科大学事件)。 学生は、 「本件講義の単位を取得できれば、被告大学を卒業して、決まっていた進路に進むことができることを伝えた上で、再試験やレポート提出等の措置を執ってもらえないか」 などと大学教授に頼み込みました。 根負けした大学教授は、再試験を実施し、 「学生Aの本件学期末試験における得点を1点としたのは、正確には12点であったのを原告が誤認していたことによるミスであったと説明」 して成績変更申請をしました。 しかし、明文で禁止してこそいなかったものの、大学は再試験を行うことを
1.成績評価の厳格化 文部科学省は、繰り返し、大学の成績評価を厳格にすべき方針を打ち出しています。 例えば、 ・平成12年度以降の高等教育の将来構想について(答申)(平成9年1月29日 大学審) 「卒業に関しては、教育の内容・方法の一層の充実を図り、教育理念や目標を踏まえて厳格に学習成果を評価し、単位を認定することによって、卒業生の質の確保を図っていくことが強く求められている。」 ・21世紀の大学像と今後の改革方策について(答申)(平成10年10月26日 大学審) 「学生の卒業時における質の確保を図るため、教員は学生に対してあらかじめ各授業における学習目標や目標達成のための授業の方法及び計画とともに、成績評価基準を明示した上で、厳格な成績評価を実施すべき。」 「厳格な成績評価については、例えばGPAと呼ばれる制度を活用した取組を行っている大学もあり、各大学においては、このような例も参考とし
1.競業避止義務 労働契約の終了後については、「信義則に基づく競業避止義務は消滅し、就業規則や労働契約等の特別の定めがある場合に限り、それらの約定に基づいて競業避止義務が認められうる」と理解されています(水町勇一郎『詳解 労働法』〔東京大学出版会、初版、令元〕914頁参照)。 しかし、競業行為も「悪質な手段、態様で行われた場合には、これらの行為を禁止する契約上の根拠がないときでも、使用者の営業の利益を侵害する不法行為として損害賠償責任が課されることがある」とされています(前掲『詳解 労働法』917頁参照)。 要するに、競業避止契約を交わしていない労働者は、退職した後、原則として自由に競業することができます。ただし、自由競争の枠を逸脱しているといえるような手段、態様で行われた場合には、例外的に損害賠償責任を負うことがあります。 この退職後の競業行為との関係で、近時公刊された判例集に目を引く裁
1.状況や脈絡によって性的な意味を帯びる言葉 言語表現には、それ単体では性的な意味を持っていなくても、状況や脈絡によって性的な意味合いを帯びるものがあります。 例えば、「家に来ないか。」という言葉があります。小学生の子どもが珍しい虫を捕まえたことを自慢したくて、友達に対し「家に来ないか。」と言ったところで、それがセクシュアル・ハラスメントに該当すると考える人はいないはずです。しかし、夜、酒の入った席で、大人が異性に対して「家に来ないか。」と言えば、性的な意味合いを感じる方も少なくないのではないかと思います。 また、言葉には、性的な意味が隠されているものもあります。例えば、「尺八」という言葉は、通常、日本の伝統的な木管楽器を指す名詞として使われます。しかし、口淫を表す隠語として使われることもあります。 性的な意味に捉えられかねない状況で、こうした言葉の使用を避けることは、日本語表現に慣れ親し
1.NGT裁判の報道 ネット上に、 「山口真帆『襲撃犯ツーショット写真』流出! 裁判隠し玉は『交際日記』」 という記事が掲載されています。 https://taishu.jp/articles/-/70166?page=1 記事には、 「5月にNGT48を卒業した山口真帆(24)。昨年12月、マンションの自室前でファンの男性から暴行を受けた事件をめぐり、当時、山口が所属していたAKB48グループの運営会社が、犯行グループを相手に損害賠償を求めて係争中だ。」 「そんな中、山口と犯行グループ・K氏との衝撃的な“疑惑のツーショット”写真が報じられた。『しかし、この報道に対して山口本人はSNS上で、あくまで指示されたポーズを取る“写真会”での写真と完全否定したんです』(スポーツ紙記者)」 「だが、ここにきて、『K氏らが裁判資料として、山口が住むマンション内にある彼女の向かいの部屋にあたる314号室
1.アカデミックハラスメント 大学等の教育・研究の場で生じるハラスメントを、アカデミックハラスメント(アカハラ)といいます。 セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント、パワーハラスメントとは異なり、法令上の概念ではありませんが、近時、裁判例等で扱われることが多くなってきています。職務上、大学教員・大学職員の方の労働問題を取り扱うことも多いことから、個人的に関心を持っている領域の一つです。 パワーハラスメントと業務上の指導との区別が問題になるのと同じように、アカデミックハラスメントが不法行為を構成するのか否かの判断にあたっては、しばしば教育的指導との区別が問題になります。近時公刊された判例集に、この境界線を知るうえで参考になった裁判例が掲載されていました。宇都宮地判令3.9.9労働判例ジャーナル117-60 国立大学法人山形大学事件です。 2.国立大学法人山形大学事件 本件で被告にな
1.セクシュアルハラスメントと迎合的言動 最一小判平27.2.26労働判例1109-5L館事件は、管理職からのセクハラについて、 「職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたりちゅうちょしたりすることが少なくないと考えられる」 との経験則を示しました。 この判決が言い渡されて以来、加害者の責任追及にあたり、被害者の迎合的言動をそれほど問題視しない裁判例が多数現れています。 近時公刊された判例集にも、この系統に属する裁判例が掲載されていました。宮崎地判令5.3.22労働判例ジャーナル136-22 慰謝料等請求事件です。 2.慰謝料等請求事件 本件で被告になったのは、宮崎県議会議員の男性です(昭和43年生まれ、既婚で妻子あり)。 原告になったのは
1.指導教授等による研究業績の剽窃 労働事件におけるハラスメントと構造的に類似することや、大学教員の方の労働事件を比較的多く受けている関係で、アカデミックハラスメントは個人的な興味研究の対象になっています。 アカデミックハラスメントに関する相談の一つに、指導教授や上位の研究者に研究成果を盗用されたというものがあります。 アカデミックハラスメントを対象とする裁判例ではありませんが、近時公刊された判例集に、研究不正の一態様である「盗用」の解釈が示された裁判例が掲載されていました。大阪地判令6.1.11労働経済判例速報2541-18 学校法人関西大学事件です。 2.学校法人関西大学事件 本件で被告になったのは、関西大学等を運営する学校法人です。 原告になったのは、被告との間で雇用契約を締結し、教授の職位にあった方です。職員研修制度により、大学院の博士課程前期課程の院生となったAの指導教員として、
1.NGT裁判と山口真帆氏の立ち位置 ネット上に、 「『山口真帆に集団訴訟も』NGTメンバー保護者会が激怒 暴行事件裁判で”場外乱闘”勃発」 という記事が掲載されていました。 https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191101-00015183-bunshun-ent 記事には、 「NGT48暴行事件をめぐりグループ運営会社『AKS』が犯行グループを相手取って起こした民事訴訟が新潟地裁で進行中だが、この事件について報じたネットニュースについて、被害者の元メンバー・山口真帆(24)がツイッターで《名誉毀損すぎる》などと反論したことが話題になっている。」 「10月30日付のスポニチが掲載したのは、主犯格とされている男性と山口のツーショット写真。2017年4月に千葉・幕張メッセで開催された写真イベントで撮影されたという2枚の写真の中で、2人は指で数字
1.小規模同族企業の「感覚」「常識」 小規模な同族企業に勤めていて、パワハラの被害に遭う方がいます。 第三者として話を聞いてみると、別段、それほど大したことはしていないのに、経営者やその親族から「感覚が違いすぎる。」「非常識だ。」などと責め立てられていることがあります。 価値観が似たり寄ったりの人が集まって閉鎖的な企業経営をしていると、自分達の感覚や常識と、世間一般の感覚や常識との差を認識したり調整したりする機会が少なくなるため、こうした現象が起きるのではないかと思います。 「感覚」「常識」といった抽象的な非難を繰り返されてきた人は、自分自身の常識に自信が持てなくなったり、自尊心を傷つけられたりしていて、見ていて本当に気の毒に思います。 近時の判例集にも、企業内部での「感覚」「常識」を盾にハラスメント・退職勧奨が行われた事例が掲載されていました。 名古屋高判平30.9.13労働判例1202
1.セクハラの立証-供述の信用性評価に係る裁判例を検討する意義 一般論として言うと、セクシュアルハラスメント(セクハラ)は、第三者の目に触れない場所・態様で行われる傾向にあります。そのため、セクハラに関しては、主要な証拠が被害者の供述しかないことも少なくありません。 この被害を受けたと主張する方の供述が、加害者とされた人の言い分と真っ向から食い違う場合、法曹実務家は、どちらの言い分が信用できるのかという問題に直面することになります。 客観証拠や第三者証言が乏しい中、供述を対照してどちらの言い分が信用できるのかを判断する作業は、率直に言って、かなり難しいです。しかし、だからといって安易に立証責任論で処理することが許されるテーマではなく、この問題は、法曹実務家の頭を悩ませています。 見通しの立てにくい難しい問題に取り組んでいくにあたり重要なのは、何といっても裁判例の検討です。どのような事案で信
1.解雇? 合意退職? 以前、 「『明日から来なくていい』の法的な意味-曖昧な言葉を事後的に都合よく解釈する手法への警鐘」 という記事を書きました。 https://sskdlawyer.hatenablog.com/entry/2019/08/15/000113 この記事の中で、「明日から来なくていい。」という多義的な言葉について、解雇とみることにも合意退職の契機とみることにも消極的な判断をした裁判例をご紹介しました(津地判平31.3.28労働判例ジャーナル89-32伊勢安土桃山城下街事件)。 この記事の控訴審判決が近時公刊された判例集に掲載されていました。名古屋高判令元.10.25労働判例1222-71「みんなで伊勢を良くし本気で日本と世界を変える人達が集まる」(旧商号:伊勢安土桃山城下町(株))事件です。 2.「みんなで伊勢を良くし本気で日本と世界を変える人達が集まる」事件 控訴審で
1.労働事件の特徴-権利関係の錯綜 労働事件の特徴の一つに、権利関係が錯綜しやすいことが挙げられます。 例えば、サービス残業やパワハラの横行している会社で、クビになった従業員が解雇の効力を争う場合、 労働契約上の権利を有することの確認、 解雇が無効であることを前提とした賃金の請求、 時間外勤務手当の請求、 付加金の請求、 パワハラを理由とする損害賠償請求、 といったことが請求の趣旨に掲げられます。 従業員の側に何らかの不手際があって会社に損害を与えていた場合、会社側から損害賠償を求める反訴を提起されることもあります。 請求の趣旨がたくさんある事件では、それを基礎づける請求の原因も分厚くなり、原被告間で大量の書面が行き交うことも珍しくありません。 また、従業員は集団になって会社を訴えることもあります。争点がある程度共通するとはいっても、一人ひとりの権利関係を主張、立証して行くためには、かなり
1.僧侶・修行僧の労働者性 一般論としていうと、住職たる地位の確認を求める訴えの提起は認められません。具体的な法律関係に関する問題でなく、法規の適用によって終局的に解決すべき法律上の争訟に当たらないと理解されているからです(芦部信喜 著 , 高橋和之 補訂『憲法』第七版』(岩波書店、第7版、令元)351頁参照)。 しかし、寺に出仕している人と寺との関係性の全てが司法審査の対象にならないのかと言われると、そういうわけでもありません。寺からお金をもらって出仕している僧侶・修行僧の方は多々いますが、こうした寺と僧侶(修行僧)との関係が雇用契約・労働契約に該当するのではないかは、しばしば裁判所でも問題になっています。近時公刊された判例集に掲載されていた、大阪地判令5.9.15如在寺事件も、そうした事案の一つです。 2.如在寺事件 本件で被告になったのは、 日蓮宗の教義を広め、儀式行事を行うこと等を
1.和解による訴訟終了 ネット上に、 【NGT48裁判】AKSと男性ファン「損害賠償数百万円」「謝罪文」「出禁」で和解成立 という記事が掲載されていました。 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200408-00000024-tospoweb-ent 記事には、 「和解の要旨について3点あるという。遠藤弁護士は『被告らが原告に対して一定程度の金銭を支払うということ』と明かし、被告らが数百万円の損害賠償金を支払うことで和解したという。」 「2点目に対しては「山口さんとのやり取りに際して、一定程度の事実を認め、原告に対して謝罪文を提出して陳謝をした」とし、A4サイズ1枚の謝罪文が提出されたと告白。『一定程度の事実』については4つあり (1)『被告らが山口への承諾を得ずに訪問し、少なくともドアを引っ張り合うような形で暴行をしたこと』。 (2)『暴行に関して他
1.無期転換ルール 有期雇用契約には「無期転換ルール」があります。 無期転換ルールとは、同一の使用者との間で5年を超えて有期労働契約が更新された場合に、労働者に対して有期労働契約を無期労働契約に転換する権利が与えられることをいいます(労働契約法18条参照)。 この無期転換ルールの適用を避けるため、無期転換権が発生する手前のところで、使用者側が「あと一回だけなら更新する。」という留保を付けて契約の更新を持ち掛けてくることがあります。 このような場合、長く働くことを希望する労働者側は、次の二つの方針のうち、いずれかを選択することを迫られます。 一つ目は、現時点で雇止めの効力を争うという方針です。 契約が更新されるという期待に合理的な理由がある場合、客観的合理的理由・社会通念上の相当性がなければ、雇止めをすることはできません(労働契約法19条参照)。「あと一回だけという条件は承諾できない。」と言
1.アカデミックハラスメント 大学等の教育・研究の場で生じるハラスメントを、アカデミックハラスメント(アカハラ)といいます。 多くの大学はアカデミックハラスメントをハラスメント防止規程等で禁止しています。しかし、セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントとは異なり法令上の概念ではないことから、どのような行為がアカデミックハラスメントに該当するのかは、必ずしも明確ではありません。 職務上、大学教員・大学職員の方の労働問題を取り扱うことが多いことから、何がアカデミックハラスメントに該当するのかには関心を有していたところ、近時公刊された判例集に、長時間にわたり反論の機会をほとんど与えることなく追及し続けたことがアカデミックハラスメントに該当するとされた裁判例が掲載されていました。高松高判令5.9.15労働判例ジャーナル142-56 損害賠償請求(アカデミック・ハラスメント)事件です。 2.損害
1.専門職大学院の実務家教員の整理解雇と解雇回避努力 専門職大学院で行われている教育内容は、学部教育の延長線上にあることも少なくありません。例えば、法科大学院での教育内容は、法学部での教育内容をより高度に発展させた形になっています。 そうであるとするならば、実務家教員を整理解雇するにあたっては、解雇回避努力として、学部での受け入れの可否が模索されるべきだとはいえないのでしょうか? 昨日ご紹介した、福岡地判令6.1.19労働判例ジャーナル145-1 学校法人西南学院事件は、この問題を考えるうえでも参考になる判断を示しています。 2.学校法人西南学院事件 本件で被告になったのは、西南学院大学を設置する学校法人です。西南学院大学には、法学部と大学院法務研究科(法科大学院)が設置されていました。 原告になったのは、被告との間で無期労働契約を締結し、被告の法科大学院で就労していた弁護士です。元々は有
1.ハラスメントに冷淡な裁判所 労働者側の代理人弁護士として常日頃問題だと思っていることの一つに、裁判所のハラスメントに対する冷淡さがあります。 裁判所はなかなかハラスメントの成立を認めません。かなり不穏当な言動がとられていても、「業務の範囲を超えているとはいえない」といった理屈でハラスメントの成立を否定します。 また、ハラスメントの成立が認められる場合でも、多くの事案では極めて低額の慰謝料しか認定しません。その慰謝料水準の低さは、弁護士費用を賄うことすらままならないことが多く、法律相談をしている中で説明すると、しばしば相談者からびっくりされます。 強い言葉に響くかも知れませんが、率直に言って、このハラスメントに過度に謙抑的な裁判所の姿勢は、ハラスメントを助長する一因になっていると思います。 近時公刊された判例集にも、裁判所のハラスメントに対する謙抑的すぎる姿勢がうかがえる裁判例が掲載され
1.合意原則の修正-自由な意思の法理 労働契約法3条1項は、 「労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。」 と規定しています。 変更という言葉が明示されていることからも分かるとおり、労働者と使用者の合意により労働契約の内容を変更することは、別段、禁止されているわけではありません。これは労働者の利益になる方向での変更だけではなく、賃金減額のように不利益になる方向での変更にもあてはまります。 しかし、賃金のような重要な労働条件を労働者に不利益に変更するにあたっては、ただ単に合意・同意が成立しているという外形があれば足りるというわけではありません。最二小判平28.2.19労働判例1136-6山梨県民信用組合事件は、 「使用者が提示した労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合には、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為があるとしても、
1.交際関係が先行していて法律関係が良く分からない問題 交際関係にある人同士が、取引関係を持ったり、共同して事業を営んだりすることがあります。こうした場合、契約書が作成されず、当事者間の法律関係が良く分からないことが少なくありません。 当事者双方の関係が良好である場合には、それでも困りません。しかし、交際関係が上手く行かなくなってくると、しばしば法律関係が明確にされないまま放置されてきたことによる紛争リスクが顕在化します。 これは労働契約においても同様です。近時公刊された判例集にも、交際関係が下地にあって法律関係が不明確であったことが労働者性をめぐる紛争に繋がった裁判例が掲載されていました。名古屋地岡崎支判令3.9.1労働経済判例速報2481-39 TRYNNO事件です。 2.TRYNNO事件 本件で被告になったのは、元々自動車製造設備の製造補修等の事業を行っていた株式会社です。 原告にな
1.裁判所からの和解勧試を「検討する」ことの意義(NGT裁判) ネット上に、 「NGT48裁判 地裁が和解提案 AKSは山口さん証人申請断念」 との記事が掲載されていました。 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200302-00000545-san-soci 記事には、 「新潟を拠点に活動するアイドルグループ『NGT48』の元メンバー、山口真帆さん(24)に対する暴行問題をめぐり、運営会社『AKS』(東京)が、暴行容疑で逮捕された男性ファン2人=不起訴=に3000万円の損害賠償を支払うよう求めた裁判で、新潟地裁が原告と被告に和解を提案したことが2日、AKS側代理人弁護人(これは「弁護士」の誤記だと思います。以下同じ。括弧内筆者。)への取材で分かった。両者とも『検討する』として持ち帰ったという。」 「同弁護人によると、同日に開かれた弁論準備手続ではこの
1.農業アイドル自殺-元所属事務所からの反訴 ネット上に、 「農業アイドル自殺『遺族側が会見やネットで事実無根の悪評を拡散した』元所属事務所が反訴」 との記事が掲載されていました。 https://www.bengo4.com/c_5/c_1234/c_1720/n_10237/ 記事には、 「愛媛県松山市を中心に活動する農業アイドル「愛の葉Girls(えのはがーるず)」のメンバーだった大本萌景(ほのか)さん(当時16)が自殺したのはパワハラや過重労働が原因だとして、約9268万円の損害賠償を求めた訴訟。」 「訴えられた当時の所属事務所と社長が10月11日、遺族側の記者会見での発言や関連団体に掲載された内容などが名誉毀損に当たるとして、萌景さんの両親とその代理人弁護士などを相手取り、約3663万円の損害賠償を求めて東京地裁に反訴した。」 「会社側代理人は提訴後、東京・霞が関の司法記者クラブ
1.配転命令権の濫用 一般論として、配転命令には、使用者の側に広範な裁量が認められます。最二小判昭61.7.14労働判例477-6 東亜ペイント事件によると、配転命令が権利濫用として無効になるのは、 ① 業務上の必要性がない場合、 ② 業務上の必要性があっても、他の不当な動機・目的のもとでなされたとき、 ③ 業務上の必要性があっても、著しい不利益を受ける場合 の三類型に限られています。 このうち③の類型について、労働者のキャリア形成への期待を阻害することが、著しい不利益といえるのかという問題があります。 名古屋高判令3.1.20労働判例1240-5 安藤運輸事件の裁判所は、運行管理者⇒倉庫業務への配転命令について、 「原告が被告において運行管理者の資格を活かし、運行管理業務や配車業務に当たっていくことができるとする期待は、合理的なものであって、単なる被控訴人の一方的な期待等にとどまるもので
1.アカデミックハラスメント 大学等の養育・研究の場で生じるハラスメントを、アカデミックハラスメント(アカハラ)といいます。 セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント、パワーハラスメントとは異なり、アカデミックハラスメントは、法令上の概念ではありません。各大学が独自に定義を定め、その抑止に努めています。 アカデミックハラスメントは、多くの場合、懲戒事由にも該当します。しかし、セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント、パワーハラスメントが、それに該当したからといって必ずしも懲戒処分の対象になるわけではないのと同様、アカデミックハラスメントも、該当する行為が認められたからといって、必ずしも懲戒処分の対象になるわけではありません。「当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」、懲戒
1.事前の注意・指導、改善の機会の付与 勤務態度の不良を理由とする解雇の可否を判断するにあたり、 事前に注意・指導がなされているのか、 改善の機会が付与されていたのか、 が重視されるという言説があります。 これは一面において正しいのですが、必ずしも全ての場合にあてはまるわけではありません。例えば、佐々木宗啓ほか『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂版、令3〕395-396頁には、次のように記載されています。 「長期雇用システムの下の正規従業員については、一般的に、労働契約上、職務経験や知識の乏しい労働者を若年のうちに雇用し、多様な部署で教育しながら職務を果たさせることが前提とされるから、教育・指導による改善・向上が期待できる限りは、解雇を回避すべきであるということになり、勤務成績・態度不良の該当性や、解雇の相当性は、比較的厳格に判断されることになる。他方、高度の技術能力を評価され
1.パワーハラスメント 事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)は、 「事業主が職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、その雇用する労働者の就業環境が害されること」 を職場におけるパワーハラスメントとして定義しています。 同指針はパワーハラスメントの典型として、身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害の六類型を掲げています。 このうち「精神的な攻撃」には、脅迫、名誉毀損、侮辱、ひどい暴言といったものが該当します。いずれの言動についても、これまで裁判例で問題になってきたのは、乱暴な言葉で罵られている例が多いように思われます。 しかし、敬語が使われていたからといって、不必要に人を傷つける言動
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