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1.係争中のSNSの使用 近時、労使紛争の進行中、経営者や労働者がSNSで相手方の姿勢・態度・言動を非難する書き込みをして紛争になる例が増えているように思います。 SNSへの書き込みは、書き込んだ直後は溜飲が下がるかも知れません。しかし、それが紛争の解決に寄与した例は、あまり目にしたことがありません。むしろ、侮辱や名誉毀損を理由とする損害賠償請求といった二次紛争が発生し、紛争が拡大するとともに、書き込んだ側が本来負わなくてもいいリスクに晒されることが多いように思います。 一昨々日、一昨日、昨日とご紹介している、松山地判令5.12.20労働経済判例速報2544-3 学校法人松山大学事件も、SNSのによって労働者側が足元を掬われてしまった事例の一つです。 2.学校法人松山大学事件 本件で被告になったのは、 松山大学等(被告大学)を運営する学校と、 被告大学の法学部法学科に所属し、常務理事の職に
1.専門業務型裁量労働制 専門業務型裁量労働制とは、 「業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務の中から、対象となる業務を労使で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度」 をいいます。 専門業務型裁量労働制 この仕組みは一定の労働時間を擬制する制度です。つまり、実際に働いた時間の長短とは関係なく、「あらかじめ定められた時間数」働いたものとして取り扱われます。こうした法的効果があることから、しばしば時間外勤務手当等(いわゆる残業代)を支払わない便法として用いられています。 専門業務型裁量労働制の根拠条文である労働基準法38条の3は第1項の柱書で次のとおり規定しています。 「使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があ
1.管理監督者性 管理監督者には、労働基準法上の労働時間規制が適用されません(労働基準法41条2号)。俗に、管理職に残業代が支払われないいといわれるのは、このためです。 残業代が支払われるのか/支払われないのかの分水嶺になることから、管理監督者への該当性は、しばしば裁判で熾烈に争われます。 管理監督者とは、 「労働条件その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」 の意と解されています。そして、裁判例の多くは、①事業主の経営上の決定に参画し、労務管理上の決定権限を有していること(経営者との一体性)、②自己の労働時間についての裁量を有していること(労働時間の裁量)、③管理監督者にふさわしい賃金等の待遇を得ていること(賃金等の待遇)といった要素を満たす者を労基法上の管理監督者と認めています(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅰ」〔青林書院、改訂版、令3〕249-250参照)。
1.入試不正等に関する大学教員の労働事件 大学教員の方が懲戒処分を受ける類型の一つとして、入学試験や単位認定、成績評価に係る不正行為が挙げられます。 ただ、個人的な経験や観測の範囲で言うと、私的な利益を図るために不正行為を行うといった事例は、あまりありません。概ねの場合、不正行為は、大学や学生の利益に対する配慮から行われています。私利私欲を図ってやったわけでもないのに、懲戒解雇といった予想外に重い処分を受け、その効力を法的に争うことができないかと相談に来られることがパターンが多く見られます。 私的利益が図られていない事案では、経緯を聞いていると気の毒に思うことが少なくありません。しかし、裁判所は、入学試験や単位認定、成績評価に係る不正行為を、重大な非違行為とみる傾向があるように思います。近時公刊物に掲載されていた、横浜地判令6.2.8労働判例ジャーナル145-10 国立大学法人横浜国立大学
1.大学教員に認められる成績評価を行う権限 大学当局から成績評価資料の提出を求められ、架空の課題を作出し、虚偽の内容の資料を提出したというと、不適切だと考える方は少なくないのではないかと思います。 しかし、学生の成績評価を行う権限は、基本的には当該科目を担当している大学教員に帰属しています。成績評価自体は公正に行われてている場合、事後的に虚偽の内容の資料を提出しようが、そのようなことは大した問題ではないという理解が成り立つ余地はないのでしょうか? 昨日ご紹介した、横浜地判令6.2.8労働判例ジャーナル145-10 国立大学法人横浜国立大学事件は、この問題を考えるにあたっても参考になります。 2.国立大学法人横浜国立大学事件 本件で被告になったのは、横浜国立大学を運営している国立大学法人です。 原告になったのは、被告との間で期間の定めのない労働契約を締結し、教授として勤務していた方です。入試
1.話合いの記録化 上司や同僚との関係性が話し合われる場で、出席者の発言を記録しようとすると、強く抵抗されることがあります。録音は認めない、メモをとることなども認めない、といったようにです。酷い場合には、メモを取り上げて破り捨てるなど、物理的な手段がとられることもあります。 それでは、こうした記録化の妨害行為が、法的に問題になることはないのでしょうか? 近時公刊された判例集に、部下のノートパソコンの蓋を閉じた行為が不法行為に該当すると判示された裁判例が掲載されていました。一昨日、昨日とご紹介している、東京地判令5.6.8労働判例ジャーナル143-54 ブレア事件です。 2.ブレア事件 本件で被告になったのは、 通信制学校の生徒及び通信大学の学生の補習教育等を目的とする株式会社(被告会社) 原告の上司である被告会社の通信事業部長(被告c) の二名です。 原告になったのは、被告が設置する補習校
1.慰謝料に冷淡なのはセクハラも同じ 一昨日、 従業員を何度となくバカと罵ることが業務の範囲を超えないとされたうえ、多数回頭を小突く・足を蹴とばすなどの身体的暴力の慰謝料が僅か5万円とされた例 - 弁護士 師子角允彬のブログ という記事を書きました。 この記事の中で、裁判所が、ハラスメントに冷淡であることをお話しました。紹介した裁判例からも、裁判所がパワーハラスメントの成否や慰謝料の認定に極めて抑制的な姿勢をとっていることは、お分かり頂けるのではないかと思います。 それでは、セクシュアルハラスメント(セクハラ)の場合はどうでしょうか。 セクハラの場合、パワハラとは異なり、業務上の必要性・相当性が問題になることは普通ありません。仕事に性的な言動など不要に決まっているからです。凡そ性的な言動を行う必要性が観念できないため、相当な限度の性的言動がどこまでなのかという話も、基本的には出て来ません。
1.専門職大学院の実務家教員の整理解雇と解雇回避努力 専門職大学院で行われている教育内容は、学部教育の延長線上にあることも少なくありません。例えば、法科大学院での教育内容は、法学部での教育内容をより高度に発展させた形になっています。 そうであるとするならば、実務家教員を整理解雇するにあたっては、解雇回避努力として、学部での受け入れの可否が模索されるべきだとはいえないのでしょうか? 昨日ご紹介した、福岡地判令6.1.19労働判例ジャーナル145-1 学校法人西南学院事件は、この問題を考えるうえでも参考になる判断を示しています。 2.学校法人西南学院事件 本件で被告になったのは、西南学院大学を設置する学校法人です。西南学院大学には、法学部と大学院法務研究科(法科大学院)が設置されていました。 原告になったのは、被告との間で無期労働契約を締結し、被告の法科大学院で就労していた弁護士です。元々は有
1.専門職大学院の実務家教員 学校教育法99条は、次のとおり規定しています。 「第九十九条 大学院は、学術の理論及び応用を教授研究し、その深奥をきわめ、又は高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識及び卓越した能力を培い、文化の進展に寄与することを目的とする。 ② 大学院のうち、学術の理論及び応用を教授研究し、高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識及び卓越した能力を培うことを目的とするものは、専門職大学院とする。 ③ 専門職大学院は、文部科学大臣の定めるところにより、その高度の専門性が求められる職業に就いている者、当該職業に関連する事業を行う者その他の関係者の協力を得て、教育課程を編成し、及び実施し、並びに教員の資質の向上を図るものとする。」 この学校教育法99条2項に基づいて設置された大学院を、専門職大学院といいます。 専門職大学院には、 【ビジネス・MOT】 【会計】
1.指導教授等による研究業績の剽窃 労働事件におけるハラスメントと構造的に類似することや、大学教員の方の労働事件を比較的多く受けている関係で、アカデミックハラスメントは個人的な興味研究の対象になっています。 アカデミックハラスメントに関する相談の一つに、指導教授や上位の研究者に研究成果を盗用されたというものがあります。 アカデミックハラスメントを対象とする裁判例ではありませんが、近時公刊された判例集に、研究不正の一態様である「盗用」の解釈が示された裁判例が掲載されていました。大阪地判令6.1.11労働経済判例速報2541-18 学校法人関西大学事件です。 2.学校法人関西大学事件 本件で被告になったのは、関西大学等を運営する学校法人です。 原告になったのは、被告との間で雇用契約を締結し、教授の職位にあった方です。職員研修制度により、大学院の博士課程前期課程の院生となったAの指導教員として、
1.同性パートナーシップ制度 現在、法律婚は異性婚のみとされていますが、地方自治体レベルでは「同性パートナーシップ制度」の普及がみられます。 「同性パートナーシップ制度」とは「各自治体が同性同士のカップルを婚姻に相当する関係と認め証明書を発行する制度」を言い、300を超える自治体で導入されています。 パートナーシップ宣誓制度 | 日本LGBTサポート協会 それでは、この同性パートナーシップ制度によりパートナーと認められた方は、自治体の給与条例上、「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」と扱ってもらうことはできないのでしょうか? 近時公刊された判例集に、この問題を取り扱った裁判例が掲載されていました。札幌地判令5.9.11労働経済判例速報2536-20 北海道(同性パートナーの扶養認定不可)事件 2.北海道(同性パートナーの扶養認定不可)事件 本件で原告になったのは、北海道の職員の方です。札幌
1.嫌よ嫌よも好きのうち? 「嫌よ嫌よも好きのうち」という日本語表現があります。 これは、 「主に女性が男性に誘いを掛けられた際などに、口先では嫌がっていても実は好意が無いわけではないと解釈する語。」 として使われる言葉です。 「嫌よ嫌よも好きのうち(いやよいやよもすきのうち)」の意味や使い方 わかりやすく解説 Weblio辞書 この言葉が生まれたのが何時で、当時の社会情勢がどうだったのかは分かりません。しかし、現代の職場では、到底許容される考え方ではありません。こうした感覚で異性の同僚と接していれば、普通に職場から排除(解雇・雇止め)されます。近時公刊された判例集にも、そのことが分かる裁判例が掲載されていました。東京地判令5.6.14労働判例ジャーナル143-48 ゲオストア事件です。 2.ゲオストア事件 本件で被告になったのは、メディアショップ「GEO」の運営等を行う株式会社です。 原
1.事前の注意・指導、改善の機会の付与 勤務態度の不良を理由とする解雇の可否を判断するにあたり、 事前に注意・指導がなされているのか、 改善の機会が付与されていたのか、 が重視されるという言説があります。 これは一面において正しいのですが、必ずしも全ての場合にあてはまるわけではありません。例えば、佐々木宗啓ほか『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂版、令3〕395-396頁には、次のように記載されています。 「長期雇用システムの下の正規従業員については、一般的に、労働契約上、職務経験や知識の乏しい労働者を若年のうちに雇用し、多様な部署で教育しながら職務を果たさせることが前提とされるから、教育・指導による改善・向上が期待できる限りは、解雇を回避すべきであるということになり、勤務成績・態度不良の該当性や、解雇の相当性は、比較的厳格に判断されることになる。他方、高度の技術能力を評価され
1.違法な懲戒処分に対する救済 違法な懲戒処分への対抗手段としては、 懲戒処分の効力を争うことのほか、 慰謝料などの損害の賠償を請求すること、 が考えられます。 このうち慰謝料などの損害賠償請求は、懲戒処分の効力だけを争う場合よりも、ハードルが高いのが通常です。違法でありさえすれば懲戒処分の効力は否定できますが、損害賠償請求を行うにあたっては、加害者の故意・過失や、懲戒処分の効力を否定するだけでは回復されない損害の発生を立証する必要があるからです。 この加害者の故意・過失に関係する論点の一つに、 審査委員会の答申に基づいて行われた懲戒処分の故意・過失をどのように捉えるのか、 という問題があります。 大規模な法人や公共団体では、審議体の議決や答申に基づいて懲戒処分が行われることがあります。こうした法人・団体に違法な懲戒処分を行ったことを理由とする損害賠償請求を行うと、しばしば 「懲戒の可否や
1.経営者による不適切なSNSの利用 近時、従業員による不適切なSNSの利用が会社に損害を生じさせる事例が目立つようになっています。従業員のSNSの利用をどのようにコントロールするのかは、既に労務管理上の重要な問題として認知されています。 しかし、SNSの不適切な利用は、何も労働者側に限ったことではありません。SNSへの不適切な投稿は、経営者自身によって行われることもあります。 近時公刊された判例集にも、経営者による不適切な動画投稿の違法性が問題になった裁判例が掲載されていました。大阪地判令5.10.3労働判例ジャーナル143-36 Isono事件です。 2.Isono事件 本件で被告になったのは、 内装工事等を行う株式会社(被告会社)と、 その代表取締役(被告B) です。 原告になったのは、被告との間で雇用契約を締結し、内相作業員として働いていた方です。 未払賃金、 預託金、 被告Bによ
1.「いじられキャラだから・・・」という弁解 被害者側からハラスメント被害を受けていたことを問題にすると、加害者側から「(被害者は)いじられキャラだったから、問題がないと思っていた」と弁解されることがあります。要するに、「自虐的なネタで笑いをとっていたから、同じような表現で侮蔑することは許されると思っていた」という意味なのだと思われます。 しかし、自分で自分のことを卑下するのと、他人から侮蔑されることは、等価ではありません。自分で言うのは平気でも、人から言われると腹が立つという経験をした方は、少なくないのではないかと思います。近時公刊された判例集にも、自虐的に笑いをとるキャラであったとしても、それによって侮蔑的な発言が正当化されることはないと判示された裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、東京地判令5.6.8労働判例ジャーナル143-54 ブレア事件です。 2.ブレア事件 本件で被
1.「デブ」は許容されるのか? 小学校時代、「デブ」などと体系を揶揄され、からかわれている同級生がいました。からかっている側は、「デブ」は努力すれば痩せられるから揶揄しても良いのだと、理屈の良く分からない独自の見解を得意気に吹聴していました。ただ単に悪口を言う自分を正当化したいだけだろうと呆れたものですが、こうした議論は、裁判所ではどのように見られるのでしょうか? 近時公刊された判例集に、ハラスメントをした側がこうした議論を展開した裁判例が掲載されていました。東京地判令5.6.8労働判例ジャーナル143-54 ブレア事件です。 2.ブレア事件 本件で被告になったのは、 通信制学校の生徒及び通信大学の学生の補習教育等を目的とする株式会社(被告会社) 原告の上司である被告会社の通信事業部長(被告c) の二名です。 原告になったのは、被告が設置する補習校(本件学校)で勤務していた方です。上司であ
1.僧侶・修行僧の労働者性 一般論としていうと、住職たる地位の確認を求める訴えの提起は認められません。具体的な法律関係に関する問題でなく、法規の適用によって終局的に解決すべき法律上の争訟に当たらないと理解されているからです(芦部信喜 著 , 高橋和之 補訂『憲法』第七版』(岩波書店、第7版、令元)351頁参照)。 しかし、寺に出仕している人と寺との関係性の全てが司法審査の対象にならないのかと言われると、そういうわけでもありません。寺からお金をもらって出仕している僧侶・修行僧の方は多々いますが、こうした寺と僧侶(修行僧)との関係が雇用契約・労働契約に該当するのではないかは、しばしば裁判所でも問題になっています。近時公刊された判例集に掲載されていた、大阪地判令5.9.15如在寺事件も、そうした事案の一つです。 2.如在寺事件 本件で被告になったのは、 日蓮宗の教義を広め、儀式行事を行うこと等を
1.アカデミックハラスメント 大学等の教育・研究の場で生じるハラスメントを、アカデミックハラスメント(アカハラ)といいます。 多くの大学はアカデミックハラスメントをハラスメント防止規程等で禁止しています。しかし、セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントとは異なり法令上の概念ではないことから、どのような行為がアカデミックハラスメントに該当するのかは、必ずしも明確ではありません。 職務上、大学教員・大学職員の方の労働問題を取り扱うことが多いことから、何がアカデミックハラスメントに該当するのかには関心を有していたところ、近時公刊された判例集に、長時間にわたり反論の機会をほとんど与えることなく追及し続けたことがアカデミックハラスメントに該当するとされた裁判例が掲載されていました。高松高判令5.9.15労働判例ジャーナル142-56 損害賠償請求(アカデミック・ハラスメント)事件です。 2.損害
1.セクシュアルハラスメントと性別役割分担意識 セクシュアルハラスメントというと「ハラスメント」という言葉の響きからか、相手が嫌がっていることを知ったうえで、敢えて嫌がらせを行うことをイメージされる方が少なくありません。 この捉え方は、あながち間違っているわけではありません。平成18年厚生労働省告示615号「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」も、セクシュアルハラスメントの例として、 「事務所内において事業主が労働者に対して性的な関係を要求したが、拒否されたため、当該労働者を解雇すること」 「出張中の車中において上司が労働者の腰、胸等に触ったが、抵抗されたため、当該労働者について不利益な配置転換をすること」 「営業所内において事業主が日頃から労働者に係る性的な事柄について公然と発言していたが、抗議されたため、当該労働者を降格すること」
1.セクシュアルハラスメント 「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」を「職場におけるセクシュアルハラスメント」といいます。 職場におけるセクシュアルハラスメントには、 「職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けるもの」(対価型セクシュアルハラスメント) と、 「当該性的な言動により労働者の就業環境が害されるもの」(環境型セクシュアルハラスメント) があるとされています(平成18年厚生労働省告示615号「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」参照)。 https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605548
1.退職勧奨の限界 退職勧奨を行うことは、基本的に自由であるとされています。ただ、「社会的相当性を逸脱した態様での半強制的ないし執拗な退職勧奨行為が行われた場合には、労働者は使用者に対し不法行為として損害賠償を請求することができる」とされています(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂版、令3〕540頁参照)。 それでは、「社会的相当性を逸脱した態様」での退職勧奨とは、具体的には、どのような行為をいうのでしょうか? この問題に関しては、多数の裁判例が集積されています。ただ、私の感覚では、裁判所に違法性を認めてもらうためのハードルは、総じて高いように思われます。そのことは、昨日紹介した、東京地判令3.2.26労働判例ジャーナル112-64 清流出版事件からも読み取ることができます。 2.清流出版事件 本件で被告になったのは、雑誌、書籍その他印刷物の制作及び販売等を
1.労働者本人がいないところで言われる揶揄・侮辱 労働者本人がいないところで言われる揶揄や侮辱は、ハラスメント(不法行為)を構成することがあり得るのでしょうか? 当人が知らないのであれば、揶揄や侮辱があったとしても、精神的な苦痛(損害)は発生しないという見方があります。 しかし、当人が知らなかったとしても、経営者が他の労働者と一緒になって当人の悪口で盛り上がっていれば、職場全体に「この人のことは馬鹿にしてもいい」という空気が醸成されることになり、真綿で首を絞められるように職場環境が悪化して行くという考え方も成り立つはずです。 近時公刊された判例集に、この職場で行われる陰口について、不法行為該当性を認めた裁判例が掲載されていました。東京高判令5.10.25労働判例ジャーナル142-22 医療法人社団Bテラス事件です。これは以前、マタハラ(マタニティハラスメント)事件としてご紹介した事件の控訴
1.長時間労働の是正 法は長時間労働を是正し、労働時間管理義務を強める方向で改正が重ねられてきました。長時間労働に対する社会的意識の変化もあり、昨今では、長時間労働を防ぐことにかなり意を払っている使用者も少なくありません。 そのためか、近時公刊された判例集に、部下の長時間労働を是正しなかったこと等を理由とする懲戒処分の可否が問題になった裁判例が掲載されていました。東京地判令4.11.18労働判例ジャーナル136-50 学校法人専修大学事件です。 2.学校法人専修大学事件 本件で被告になったのは、専修大学等の市立学校を設置・運営する学校法人です。 原告になったのは、昭和57年4月1日に大学事務員として被告に採用され、平成25年5月1日以降、大学院事務部長を務めていた方です(令和2年3月31日定年退職)。 平成29年10月16日、大学院事務部のDキャンパス事務課に所属していたE掛長が、うつ状態
1.ハラスメントに冷淡な裁判所 労働者側の代理人弁護士として常日頃問題だと思っていることの一つに、裁判所のハラスメントに対する冷淡さがあります。 裁判所はなかなかハラスメントの成立を認めません。かなり不穏当な言動がとられていても、「業務の範囲を超えているとはいえない」といった理屈でハラスメントの成立を否定します。 また、ハラスメントの成立が認められる場合でも、多くの事案では極めて低額の慰謝料しか認定しません。その慰謝料水準の低さは、弁護士費用を賄うことすらままならないことが多く、法律相談をしている中で説明すると、しばしば相談者からびっくりされます。 強い言葉に響くかも知れませんが、率直に言って、このハラスメントに過度に謙抑的な裁判所の姿勢は、ハラスメントを助長する一因になっていると思います。 近時公刊された判例集にも、裁判所のハラスメントに対する謙抑的すぎる姿勢がうかがえる裁判例が掲載され
1.懲戒処分に引き続いて行われる配転命令 公務員に限ったことではありませんが、懲戒処分に引き続いて配転を命じられることがあります。国側・地方公共団体側・使用者側からすれば引き続き同じ業務を担当することが好ましくないということなのだと思われますが、職員側・労働者側からすると左遷人事のように感じられることが少なくありません。 それでは、懲戒処分が取消訴訟等で違法だと判示された場合、この配転命令の違法/適法は、どのように判断されるのでしょうか? この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。京都地判令5.4.27労働判例ジャーナル141-30 京都市事件です。 2.京都市事件 本件で被告になったのは、京都市です。 原告になったのは、京都市児童相談所において主任として勤務していた方です。京都市長から停職3日の懲戒処分(本件懲戒処分)を受け、その取消を求める訴
1.弁護士費用を相手方に請求できるか? 弁護士費用は自弁するのが原則です。裁判に勝っても、相手方に弁護士費用を転嫁することはできません。その代わり、裁判に負けても、相手方から弁護士費用を転嫁される心配はありません。 しかし、一定の類型の損害賠償請求に関しては、弁護士費用の一部を損害として計上することが認められています。具体的に言うと、不法行為に基づく損害賠償請求や、安全配慮義務に基づく損害賠償請求では、弁護士費用のうち損害額の10%程度の金額を損害として計上することが認められています(最一小判昭44.2.27最高裁判所民事判例集23-2-441、最二小判平24.2.24最高裁判所裁判集民事240-111参照)。 また、これを超えて、弁護士費用実額を損害として認めた事例も少数ながら存在します。例えば、大阪地判平29.8.30判例タイムズ1445-202は、インターネット上の名誉毀損が関係する
1.普通解雇の懲戒解雇への転換 古くからある論点の一つに、 懲戒解雇を普通解雇に転換できるか? という問題があります。 一般論としていうと、普通解雇の方が懲戒解雇よりも有効とされるハードルが低いと理解されています。そのため、懲戒解雇したものの、その効力が争われて裁判所に事件が継続した時、使用者側から 「あの懲戒解雇は、普通解雇する趣旨を含むものだ」 という主張がなされることがあります。これが懲戒解雇の普通解雇への転換と呼ばれる論点です。 この論点に関しては、一般に、次のように理解されています。 「使用者が普通解雇の予備的な意思表示をしていない事案で、裁判所が、懲戒解雇としては無効であるが普通解雇としては有効であると判断することができるかが解釈上問題となりうる(いわゆる『無効行為の転換』の可否の問題)。紛争の一回的解決の要請からすればこれを肯定することも考えられる)が、懲戒解雇と普通解雇では
1.解雇撤回への対抗 無理筋の解雇に対し、労働者側から解雇無効、地位確認を主張すると、使用者側から解雇を撤回されることがあります。 これが真摯なものであればよいのですが、敗訴リスクを考慮して解雇を一旦撤回するものの、当該労働者を職場から排除する意思を喪失することなく、退職に追い込むため、あの手のこの手の嫌がらせに及ぶ使用者も少なくありません。使用者の中には、どうせ復職しないだろうと高を括って解雇撤回し、バックペイが蓄積するリスクを回避しようとする者もいます。 それでは、こうした使用者側の手法に対抗して行くには、どのような理屈が考えられるのでしょうか? 代表的な法律構成の一つが、受領拒絶状態が解消されていないというものです。 民法536条2項は、 「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。」 と規定しています。
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