『流出する日本人 海外移住の光と影』 著者 大石奈々(メルボルン大学アジア研究所准教授) 中公新書 924円 英国留学のために日本を後にして32年になる評者にとって、日本人の海外移住は個人的に大きな関心事である。評者は今年2月に亡くなった世界的指揮者・小澤征爾氏の著書『ボクの音楽武者修行』などに啓発されて海外を目指した。そうした人生経験に照らしてみても、過去半世紀の日本人による海外移住は、金銭目当てというよりは「自己実現」や「生きづらい環境を逃れたい」という意思を反映する傾向が強いという本書の指摘には実感として納得がいく。 しかも、移住者には女性が目立って多いというのも至極当然なように思われる。ただし、最近では大地震などの災害リスクや台湾をめぐる安全保障リスク、さらに日本経済の長期的なリスクなども海外脱出のプッシュ要因になっているという。とはいえ、海外に出れば万事がバラ色というわけではない