最愛の紫上の死は『源氏物語』のクライマックス 「御法」で描かれる紫上の死の場面は、『源氏物語』全体のクライマックスと言っても、まず言い過ぎではあるまい。 紫上という人は、源氏が妻として真剣に愛した唯一の人であった。あの須磨明石へ蟄居の折に、いつだって源氏の脳裏に浮かび来たのは紫上であったし、帰京後、また共に暮らすようになった折の叙述に、源氏は、この君の魅力が天下無双のものであることをつくづくと再確認し、「いったいどうやって平気で何年も逢わずにおられたものであろう」と我ながら訝しくさえ思ったとある。 それほどに源氏が心を込めて愛した人が、物の怪の祟りでもなく、まったくの定命(じょうみょう)によって、何の苦しみもなく「消えゆく露の」ようにも儚く死んでしまうのだが、しかし、その死の床には、源氏も、明石の中宮も、夕霧も、みな囲繞して看取っていた。こんな幸福な死に方をした女君は、この人を置いて他には