NHK連続テレビ小説の主人公は通常、強いヒロイン像として描かれることが多い。基本的に名を成した女性をモデルにした一代記、半生記の形を取ることが多いため、その脚本は結果的にサクセスストーリーの軌道を描くのだ。 だが現在放送中の『カムカムエヴリバディ』、3世代のヒロインを3人の女優が演じる斬新な構造の朝ドラのトップバッター・安子編の物語は、少なくとも第一部も大詰めの現時点においてはサクセスストーリーとして描かれてはいない。 それは「困難に負けず夢を叶える」という朝ドラの王道とはあまりに違う。戦争という巨大な暴力で夫を失い、戦後の激動に翻弄され、ついには愛する娘とも別れる、1人の日本女性の敗北の物語だ。 朝ドラなのに、「サクセスストーリー」を描かない 『敗北を抱きしめて』(ジョン・ダワー著)という、ピュリッツァー賞を受賞したノンフィクションがある。玉音放送によって聖戦と信じた戦争の敗北を宣言され