誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。 生気が無く、うつろな目をした主人公・香川杏(河合優実)は、ひとり人けのない街を歩く。物語は、そんな場面から始まる。母親から暴力を受け続けて売春を強いられ、10代で覚えた覚醒剤から抜け出せなくなった一人の少女。それでも、出会いを機にやり直そうとする彼女に差し込む情と無情を、「あんのこと」は淡々とつづっていく。 杏の生い立ちや境遇は、社会の「日陰」として扱われがちだ。学校に通わず、売春をして、違法薬物に手を染める。この社会に確かに存在しているのに、そこに至った経緯に目を向けられることは少ない。こうした世界を自分とは無縁だと思っていたならば、「あんのこと」は見る者に痛切なリアルを突きつけるだろう。 売春で日銭 ネカフ